《5》 真夜中のダンスパーティー17 - ナイショの妖精さん1
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《5》 真夜中のダンスパーティー17

  15, 2018 21:48
20181215



 低く連なる一戸建ての向こうに、浅山の山並みがのぞいている。

 堤防の向こうは、白い海。海の上の空も白い雲でおおわれている。

 季節はいつの間にか、秋。

 高台の並木を涼しい風が吹き抜けていく。



 詩人になった気分で歩いていたら、先行く背の高い背中がふり返った。


「――で。綾。なんでオレについてくんだよ? おまえの家は、逆方向だろ?」


 坂のとちゅうで、ヨウちゃんが立ちどまって、腕を組んでる。

 いつも思うんだけど、片肩にかけたグレーのランドセルがぜんっぜん似合ってない。


 放課後。あたしは自分の家に帰らないで、高台のてっぺんにある自宅カフェ「つむじ風」をめざしてる。


「べつに。ヨウちゃんに用があるわけじゃないもん。あたしは、ヨウちゃんのお母さんと約束してるだけだもん」


 あたしは、ランドセルをゆらして、ぷいってそっぽ向いちゃった。


「はぁ? そんな約束、いつしたんだよ?」

「きのうの晩、電話がかかってきたの。お母さんはヨウちゃんとちがって、記憶喪失にならないからね。先週の夜のこと、ちゃ~んと覚えてくれてて、『調子はどう? お店に出す新作のシフォンケーキができたから、よかったら試食に来てくれない?』って誘ってくれたの」

「……なんだよ。記憶喪失って」


 ヨウちゃんの右眉が、ピクっとあがる。


「べつに~」


 あたし、ほっぺた、ぷっくり。


 だって、この人、すごいんだよ?

 ふつう、あんなことがあったらさ。次の日、学校に行ったら、なにかかわるのかと思うじゃん。

 そしたら、ぜんっぜん。

 あいかわらず、女子たちとイチャイチャしゃべってるし。まあ、最近は、男子たちとも遊んでるみたいだけど。

 こないだなんて、リンちゃん、「最近、中条君が、わたしたちにちゃんと興味持って、いろいろきいてくれるから、うれし~」なんて言ってたんだよ。

「めげずに、二回目告白するんだ~」だって。青森さんまで「卒業キャンプまでに告白する」って言い出したし。


 そのくせ、ヨウちゃん、あたしの前は素通り。


「ヨウちゃんさ~。あの晩。たしか、あたしに『オレがいる』って言ったよね~。あたしになにがあっても、そばにいてくれるって。けどさ~、あたしあれから、ヨウちゃんに、目も合わせてもらえないんだけど~」

「はぁ? べつにいいじゃねぇか。オレは『おまえがひとりになっても』って言ったんだぞ。おまえ、永井や河瀬と楽しそうにしてんだから、オレがわざわざ話す必要ねぇだろ?」


 あ……覚えてはいたんだ……。


 あたしが何度、あの晩のことを、ぜんぶ夢かと思ったことか。



 あの晩の次の日。

 学校に行ったら、有香ちゃんがあたしの席にやって来た。

「きのうはごめんね」って、有香ちゃんは頭をさげた。


――真央ともいろいろ話したんだけど。わたしたち、綾ちゃんが言うように、中条のこと、ほとんど知らないんだよね。それなのに、勝手に相手に悪いイメージつけたら、いけないよね。綾ちゃんがだれと仲良くてもさ、わたしたちは綾ちゃんの親友だから――


 真央ちゃんも、丸いほっぺたでにっこり笑った。


――そ~そ~。よく考えたら、うち、有香の好きな人の趣味、理解できないんだよな。でも、有香だって、うちの好きな人の趣味を理解できない。だから、うちらが綾の好きな人の趣味を理解できなくても、と~ぜんなんだよな――


「好きな人じゃない!」って、ちゃんと否定しといたけど。


 リンちゃんたちはと言えば、最近ヨウちゃんにかまってもらえるから、あたしの悪口を言うのはやめたみたい。

 それはそれで、ホッとしたんだけどね。

 な~んか、ずっと胸がもやもや。




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