
右手の甲だって、左足だって、ほっぺただって。薬を塗っただけで、するりするりと治っていく。
寝たきりだったヨウちゃんはもう起きあがって、ベッドの横に足を出して、腰かけている。
「ねえ、もう、これで傷はぜんぶ?」
「あとは、背中と肩だな」
「パジャマ、ジャマ。ぬいで」
「って、おまえは、ヘンタイかっ!? あとは自分で塗るからいいっ!」
バッと、薬ビンを奪いとられる。
なによ~。これじゃあ、さっきまでのほうが、おとなしくてかわいかったよ~。
「~っ」
肩の筋肉をつかった自分が悪いのに。ヨウちゃん、右肩をおさえてうずくまってる。
「ほら、貸して。肩の、どこ?」
指に薬をつけて、すーってなでたら、肩の傷も、すーって溶けて消えた。
背中の傷も、虹色の光に消えていく。
もうだいじょうぶ。
これでいつもの元気なヨウちゃん。
鼻の奥がつんとした。
「あっ」と思ったときには、遅い。ボロボロ、ボロボロ。あたしの目から涙がこぼれ出す。
ヤダっ! サイアク。とまんない。
「ありがとな。綾」
パジャマを着直してたヨウちゃんが、ふんわり笑ってふり返った。
「だ、ダメっ! こっち、見ないで~っ!」
だって、めちゃくちゃはずかしい。
あたしひとりで泣いちゃって、バカみたい。両手の甲で顔をふいてんのに、また目から涙があふれてくるし。
うわ~ん! だって、うれしくて~っ!!
ふっと目の前が暗くなった。と思ったら、あたしの体は、硬くて大きな胸の中にあった。
……え?
太いヨウちゃんの両腕が、なんでかあたしの背中にまわってる。あたしの肩と腰を、右手と左手でぎゅってつかまれてる。ヨウちゃんのほっぺたが、あたしのほっぺたのすぐ上にある。
え? え? え?
なに? なにが、いったい、どうなってんのっ!?
ドクドク、ドクドク。ドクドク、ドクドク。
これって、どっちの心臓の音っ!?

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