
「お願い。二階の手前の部屋だから」
「は、ハイっ!」
ビンをにぎって、バタバタ階段を二階にのぼっていって。手前の部屋。
ドキドキしながら、ドアノブをつかんで引いたら、ヨウちゃんの部屋の窓の外も、白んでいた。
部屋の広さは、となりのお母さんの部屋とおんなじくらい? あたしの部屋よりは、ほんの少し、せまいかな?
男の子の部屋って、こんなんなんだ……。
ぬいぐるみとかキャラクターグッズとか、そういうカワイイ物がひとつもない。たなはメッキのラック。色も青とか黒とかメッキばっかりで冷めた感じ。
だけど、生活感はばっちり。勉強つくえの上は、マンガとか教科書とかゲームの攻略本でごっちゃりだし。テレビラックの下は、雑誌とかDVDとかゲーム機とかがつみかさなってる。
これ見たら、女子たち、がっかりするんじゃない?
だって、マンガの中の男の子って、たいていでっかい部屋を持ってて、オシャレな家具が数個置いてあって、あとはひろびろ~。すっきり清潔~。観葉植物、ポンって感じなのに。
どうでもいいところばっかり見ちゃうのは、窓の下のベッドで、すーすー寝ているヨウちゃんを、どうしたらいいかわかんないから。
やっぱ、お母さんがヒマになるまで、お店で待とうかな……。
そっとドアを閉じようとしたら、「……綾?」って呼ばれた。
ぎゃっ! 起きたっ !!
「……あ、あの……ヨウちゃん、薬できたよ……」
「……マジで? すげぇ……」
言葉は返してくれるんだけど、ヨウちゃん、ちっとも動かない。
もしかしてあたし、寝言と会話してる……?
そろそろと近づいていって、ヨウちゃんの目の前にビンを持っていったら、ヨウちゃんは、目を半分だけ開けて、「ホントだ……」って口元で笑った。
あ……胸、キュンって鳴った。
「あ、あの……手、出して。あたし、傷口に塗る」
「……お願い」
左腕がごそごそと、ふとんから出てくる。パジャマのそでをめくったら、あっちこっちにガーゼが貼ってあって、そこから血がにじみだしていた。
うわ~ん、怖いよ~! あたし、スプラッター映画って苦手~っ!!
顔をそむけて、なるべく見ないようにしながらガーゼをはがしたら、かみそりで切ったみたいな傷口。
痛そう~! まだ血が出てる~!
ビンのキャップを開けて、指に虹色の薬をつけて、ぶるぶる震えながら、塗りつける。
どうしよう。どうしよう。これで、傷が治らなかったらどうしよう……。
薬を塗ったところに、ぽっと虹色の光が灯った。
薬は光を放ちながら、傷口にしみこんでいく。
傷口に吸い込まれて光が消える。
同時に傷も消えていた。
傷があったところは、うすく赤い線がのこっているだけ。
その赤い線もうす紫色になって、肌の中に溶け込むように消えてく。
「な、な、な、治ったぁ~っ!! 」
あたしって、スゴイ! スゴイかもっ !!
ヨウちゃんの左腕がふわっとあがって、あたしの頭の上にのっかった。
アホ毛ごと、あたしの頭をくしゃっとなでる。
……あったかい。
なんか、きゅ~ってちぢこまっちゃって、あたし、ペットのウサギになった気分。
「ほかも……お願い……」
「う、うんっ!」
よ~しっ! めっちゃ、テンションあがってきた!
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