《5》 真夜中のダンスパーティー13 - ナイショの妖精さん1
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《5》 真夜中のダンスパーティー13

  10, 2018 21:36
2018112401




 あたしは、アホっ子で。

 ドジっ子で。ドンくさくて。

 どんなにやっても、失敗ばっかり。


 だけど、ヨウちゃんだって、何度も失敗したんだから。

 それでもがんばって、あたしを人間にもどしてくれたんだから。


 あたしも、がんばる!


「やった! きっちり、百ミリリットル!」



 次は、ビーカーにそそいだ濃縮液に、分量どおりのグリセリンとはちみつを入れること。

 ここまで来て、失敗したくないから、入れるときは慎重に。

 手がガタガタと震えてきた。何度も計量スプーンから、グリセリンがこぼれちゃう。


 落ちついて、落ちついて。


 一度、スプーンとグリセリンのビンをつくえに置いて。す~は~と深呼吸。

 そ~っとやったら、こぼさないで入れられた。

 ビーカーの中で、塗り薬っぽくドロドロになった液体を、混ぜ棒でまぜていく。

 ビンにうつしかえて、ふたをして、常温になったら完成……のはず……。


 ビンを目の前にして、あたしの心臓はバックン、バックン。


 成功したら、液体が虹色にかわる。
 
 失敗だったら、どす黒い茶色のまんま。



 書斎の窓の外が白くなりだしている。

 さっきまで真っ暗で見えなかった海が見える。ほんのりカーブを描く水平線。その上にはうす青色の空。

 あたしの手元が、ぽうっと光った。


 ビンの中で、液体の茶色が溶けるようにうすくなってく。色は見る間に透明になって、虹色にかがやきはじめる。


 熱い涙が、あたしのほおを伝った。


 アホっ子でも、ドンくさくても、もういいや。

 あたしは人間として生まれたんだから。

 みんなより歩くのが遅くても。

 一歩、一歩。

 人間として歩いていこう。





「お母さん、できましたっ!」


 あたしは、虹色の液体の入ったビンを抱いて、書斎からとびだした。

 階段を一階へかけあがりながら、ハッとする。

 今は、明け方。
 お母さんもさすがに寝ちゃったよね。


「本当、綾ちゃんっ!? 」


 お店のカウンターから、お母さんが手をエプロンでふきながら出てきた。


「がんばったわね~っ!!  綾ちゃん、エライっ!! 」


 ビンごと、ぎゅっと抱きしめられちゃう。
 有香ちゃんと同じくらいの身長のお母さん。だけど、有香ちゃんよりふわっふわ。


「ううん。お母さんが助けてくれたおかげです~」


 なんだか、また目に涙がたまってきちゃう。

 そういえば、うちのママに抱っこされたのって、何年生のときが最後だろ?


「あの、この薬を早くヨウちゃんに!」


 チンっ!

 カウンターの奥の厨房で、オーブンの鳴る音がした。


「あ、あら。ケーキが焼けたみたい」


 お母さん、あっちにこっちにバタバタ。


 そっか……。お店の準備をしてたんだ……。


「お母さん、あたし、先にヨウちゃんのところに行ってます」




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