
あたしは、アホっ子で。
ドジっ子で。ドンくさくて。
どんなにやっても、失敗ばっかり。
だけど、ヨウちゃんだって、何度も失敗したんだから。
それでもがんばって、あたしを人間にもどしてくれたんだから。
あたしも、がんばる!
「やった! きっちり、百ミリリットル!」
次は、ビーカーにそそいだ濃縮液に、分量どおりのグリセリンとはちみつを入れること。
ここまで来て、失敗したくないから、入れるときは慎重に。
手がガタガタと震えてきた。何度も計量スプーンから、グリセリンがこぼれちゃう。
落ちついて、落ちついて。
一度、スプーンとグリセリンのビンをつくえに置いて。す~は~と深呼吸。
そ~っとやったら、こぼさないで入れられた。
ビーカーの中で、塗り薬っぽくドロドロになった液体を、混ぜ棒でまぜていく。
ビンにうつしかえて、ふたをして、常温になったら完成……のはず……。
ビンを目の前にして、あたしの心臓はバックン、バックン。
成功したら、液体が虹色にかわる。
失敗だったら、どす黒い茶色のまんま。
書斎の窓の外が白くなりだしている。
さっきまで真っ暗で見えなかった海が見える。ほんのりカーブを描く水平線。その上にはうす青色の空。
あたしの手元が、ぽうっと光った。
ビンの中で、液体の茶色が溶けるようにうすくなってく。色は見る間に透明になって、虹色にかがやきはじめる。
熱い涙が、あたしのほおを伝った。
アホっ子でも、ドンくさくても、もういいや。
あたしは人間として生まれたんだから。
みんなより歩くのが遅くても。
一歩、一歩。
人間として歩いていこう。
「お母さん、できましたっ!」
あたしは、虹色の液体の入ったビンを抱いて、書斎からとびだした。
階段を一階へかけあがりながら、ハッとする。
今は、明け方。
お母さんもさすがに寝ちゃったよね。
「本当、綾ちゃんっ!? 」
お店のカウンターから、お母さんが手をエプロンでふきながら出てきた。
「がんばったわね~っ!! 綾ちゃん、エライっ!! 」
ビンごと、ぎゅっと抱きしめられちゃう。
有香ちゃんと同じくらいの身長のお母さん。だけど、有香ちゃんよりふわっふわ。
「ううん。お母さんが助けてくれたおかげです~」
なんだか、また目に涙がたまってきちゃう。
そういえば、うちのママに抱っこされたのって、何年生のときが最後だろ?
「あの、この薬を早くヨウちゃんに!」
チンっ!
カウンターの奥の厨房で、オーブンの鳴る音がした。
「あ、あら。ケーキが焼けたみたい」
お母さん、あっちにこっちにバタバタ。
そっか……。お店の準備をしてたんだ……。
「お母さん、あたし、先にヨウちゃんのところに行ってます」
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