《5》 真夜中のダンスパーティー12 - ナイショの妖精さん1
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《5》 真夜中のダンスパーティー12

  09, 2018 22:08
2018112401



 かごにいっぱいの虹色のレモンバームの葉をつんで書斎にもどると、お母さんは、ヨウちゃんがつかったなべをキレイに洗って、つくえの上も整えてくれていた。


「水、一リットルに、レモンバーム十グラムを入れて、濃縮」


 で、出た。濃縮!


「きっちり百ミリリットルまで濃縮させたら、火をとめて。グリセリンとはちみつを……」


 なんかいろいろやることがあるみたいだけど。まずはまな板の上で、葉っぱの千切り。

 お母さんは薬づくりには関われないから、フェアリー・ドクターのあたしひとりで。

 包丁でトントン、トントン。地道な作業。

 ちゃんとはかって、葉っぱをなべに入れて。水もしっかり一リットルはかって。

 あとはぐつぐつ煮つめてく。



 きっちりで火をとめて、ガーゼで葉っぱをこしながら、耐熱ビーカーにそそいだら、八十三ミリリットルしかなかった。


「お母さん。もう一度おなべに入れ直して、足しちゃダメなんですか?」

「一度冷やしたら、つかえないって書いてあるわ。残念だけどやり直しね」


 ぐ……ふりだし。


 それから、時計の長い針が、ぐるぐるぐるぐる回る中。

 あたしは、永遠、薬づくり。

 強火にしたり、中火にしたり、弱火にしたり。火の調節まで分刻みで決まってる。

 ちょっとでも、まちがったら、ゲームオーバー。


 おなべの中は、緑色のキレイな液体。……だったのが、煮こんでいくうちに深緑色。さらに濃くなって、なんかドス黒い茶色にかわって。


 もう、コンロのつまみを切っただけでもわかる。


 ――失敗。



「……綾ちゃん、だいじょうぶ?」


 顔をあげると、ヨウちゃんのお母さんが、あたしの肩にショールをかけてくれていた。
 湯気の立つティーカップが、つくえの上に置かれる。


「あんまりこんつめると、バテちゃうわよ。ちょっと休みましょうか?」

「あ……ありがとうございます……」


 涙がこみあげてきた。


 ヨウちゃんは、これをひとりでやってたんだ……。

 だれかに本を調べてもらうこともなく。だれかに声をかけてもらうこともなく。


「あ……あの……ヨウちゃんは……?」


「部屋で寝てるわ。あせらなくても、だいじょうぶ。あの子も落ちついてるから」


 だけど、あたしが薬をつくらなきゃ、ヨウちゃんはずっと治らない……。


「お母さん。あたし、やります」


 一口飲んだカモミールティーを置いて、あたしはイスから立ちあがった。

 千切りにした葉っぱはもう全部つかっちゃったから、また、包丁で刻むところから。

 涙は、手の甲でキレイにぬぐって。

 包丁持って、トントントン。




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