《5》 真夜中のダンスパーティー11 - ナイショの妖精さん1
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《5》 真夜中のダンスパーティー11

  07, 2018 20:25
2018112401


「うん、もどった! ヨウちゃんのつくった薬で、ちゃんともとにもどれたよっ!」


「……そうか……」


 だけど、ヨウちゃんは、そのままお母さんにもたれて、がっくりと目を閉じちゃった。

 Tシャツもジーンズも、あっちもこっちも、かみそりで切ったみたいに裂けている。ほっぺや腕なんて、血がしみだしてきちゃってる。


 い、い、痛そう~っ!!


「ど、どうしよう。お母さんっ! きゅ、きゅ、救急車っ!! 」


 だけどヨウちゃんのお母さんは、眉をひそめて首をふった。


「ムリよ。病院じゃ治せないの。妖精から受けた傷は、人間の薬じゃ治らないのよ」


 ……そうだった。


 妖精から傷を受けた人を治すには、フェアリー・ドクターのつくる薬が必要……。


「薬は……オレが……つくる……」


 目を開ける力もないくせに、ヨウちゃんてば、そんなことを言う。


「今のあんたには、ムリよ。お母さんが、なにか方法を考えるから……」


「あ、あたしがつくるっ!」


 あたし、両手のこぶしをぎゅっとにぎりしめた。


「ヨウちゃんの薬は、あたしがつくる。あたしだって、フェアリー・ドクターの洗礼受けたもんっ!! 」





 翻訳ノートをめくる手がもどかしい。


「妖精の羽で、ケガした人を治す方法……」


 う~。ぜんぜんそんなののってない。


 ヨウちゃんのお母さんも書斎の本だなから、あれこれ本を引っぱりだしてきて、薬をつくる方法をさがしてくれてる。


「これね。レモンバームの塗り薬。妖精たたきにあった人を治す」

「……妖精たたき?」

「妖精風ともいうみたい。向こうの言葉だと『フェアリー・ブラスト』。妖精が巻き起こす風のことよ。――綾ちゃん、庭に、レモンバームを積みに行きましょう」

「は、はいっ!」


 大きな編みかごと園芸バサミを持って、いざ出陣!


 お母さんは、足元を照らす庭園灯をたよりに、さくさくとレモンバームが植わっているところへ歩いていく。


「ここよ。この一帯のシソみたいな小さな葉っぱが、ぜんぶレモンバーム」

「えっと、ミントとのちがいが、あんまりわかんないけど……」

「ミントは向こうに植わってるだけだから、まちがえないわ。さぁ、これから先はフェアリー・ドクターさん、お願いね」

「は、はいっ!」


 あたし、レモンバームの茂みにしゃがみこんで、園芸バサミを手にかまえて。


「レモンバームさん! ヨウちゃんの傷を治してぇ!」


 さけんだら、夜闇に染まった葉っぱが、ぽわっと虹色に光った。


「やったっ!」


 虹色の葉をハサミで切り取るたびに、レモンの香りがあたりに広がる。

 もう0時をすぎた深夜なのに、あたしのまわりだけ虹色の世界。




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