
「うん、もどった! ヨウちゃんのつくった薬で、ちゃんともとにもどれたよっ!」
「……そうか……」
だけど、ヨウちゃんは、そのままお母さんにもたれて、がっくりと目を閉じちゃった。
Tシャツもジーンズも、あっちもこっちも、かみそりで切ったみたいに裂けている。ほっぺや腕なんて、血がしみだしてきちゃってる。
い、い、痛そう~っ!!
「ど、どうしよう。お母さんっ! きゅ、きゅ、救急車っ!! 」
だけどヨウちゃんのお母さんは、眉をひそめて首をふった。
「ムリよ。病院じゃ治せないの。妖精から受けた傷は、人間の薬じゃ治らないのよ」
……そうだった。
妖精から傷を受けた人を治すには、フェアリー・ドクターのつくる薬が必要……。
「薬は……オレが……つくる……」
目を開ける力もないくせに、ヨウちゃんてば、そんなことを言う。
「今のあんたには、ムリよ。お母さんが、なにか方法を考えるから……」
「あ、あたしがつくるっ!」
あたし、両手のこぶしをぎゅっとにぎりしめた。
「ヨウちゃんの薬は、あたしがつくる。あたしだって、フェアリー・ドクターの洗礼受けたもんっ!! 」
翻訳ノートをめくる手がもどかしい。
「妖精の羽で、ケガした人を治す方法……」
う~。ぜんぜんそんなののってない。
ヨウちゃんのお母さんも書斎の本だなから、あれこれ本を引っぱりだしてきて、薬をつくる方法をさがしてくれてる。
「これね。レモンバームの塗り薬。妖精たたきにあった人を治す」
「……妖精たたき?」
「妖精風ともいうみたい。向こうの言葉だと『フェアリー・ブラスト』。妖精が巻き起こす風のことよ。――綾ちゃん、庭に、レモンバームを積みに行きましょう」
「は、はいっ!」
大きな編みかごと園芸バサミを持って、いざ出陣!
お母さんは、足元を照らす庭園灯をたよりに、さくさくとレモンバームが植わっているところへ歩いていく。
「ここよ。この一帯のシソみたいな小さな葉っぱが、ぜんぶレモンバーム」
「えっと、ミントとのちがいが、あんまりわかんないけど……」
「ミントは向こうに植わってるだけだから、まちがえないわ。さぁ、これから先はフェアリー・ドクターさん、お願いね」
「は、はいっ!」
あたし、レモンバームの茂みにしゃがみこんで、園芸バサミを手にかまえて。
「レモンバームさん! ヨウちゃんの傷を治してぇ!」
さけんだら、夜闇に染まった葉っぱが、ぽわっと虹色に光った。
「やったっ!」
虹色の葉をハサミで切り取るたびに、レモンの香りがあたりに広がる。
もう0時をすぎた深夜なのに、あたしのまわりだけ虹色の世界。
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