《5》 真夜中のダンスパーティー10 - ナイショの妖精さん1
fc2ブログ

《5》 真夜中のダンスパーティー10

  06, 2018 21:11
2018112401



「……え?」


「人間の世界には、オレがいるだろ? おまえの友だちがどっかに行こうが、おまえがクラスでひとりぼっちになろうが、オレがずっと、おまえといてやるよ。オレだけはぜったいに、綾を見放さない。だから……お願いだからっ! オレのために帰って来いっ!! 」



 ……なに……それ……。




 ビュンっと風が吹いた。

 ヨウちゃんの右手の甲に、スパッと傷がつく。


「っ!」


 ヨウちゃんがとっさに手を開く。

 小ビンが転げて、宙にうかぶ。


「あっ!! 」


 あたしは、さけんだ。

 小ビンの中から、虹色の液体が丸いしずくになって、宙に飛び散る。

 大粒のしずく。夜空に舞う虹色のしずく。


「ヨウちゃんの薬がっ!」


 あたしは妖精の少女の手をふりほどいた。

 ふわふわパーマの少女の青い瞳が、さみしげにゆれる。


 虹色の丸いしずくが、シャボン玉のようにふりそそぐ中。

 あたしは、妖精の少女と向かい合った。



「……ごめんなさい。あたしはやっぱり、妖精の世界には行けません」



 パッと背を向けて。虹色のしずくに向かって、両腕をさしだして。

 大玉みたいなしずくを、自分の胸にしっかりと抱きとめる。


 水滴がはじける瞬間。

 口を開いて、虹色の液体をのどの奥に流し込んだ。



「綾ぁっ!」


 ヨウちゃんの声をきいた気がした。



ガバっと上半身を起こしたら、ベッドの横に大きな窓があった。

 おぼろ月が、うす雲に虹色の輪をつくってる。


「ヨウちゃんっ!」


 ふとんをはねのけて、立ちあがる。足にずんと体重がのしかかった。


 お……重……。


 わすれてた。
 人間の体って、こんなに重いんだ……。

 空を飛ぶ羽もない。くるくるステップを踏んで、軽やかに踊れない。

 重くて、不器用、不格好。



「ヨウちゃんっ!! 」


 バンと、ドアを開けたら、ヨウちゃんの家の二階の廊下だった。

 重たい足がもどかしくてしょうがない。前のめりになって、体を引きずるようにして、階段を一階までおりていく。

 玄関のドアを開けると、月明かりがハーブの庭を照らしていた。

 ヨウちゃんのお母さんが、庭にしゃがみ込んで、ヨウちゃんを呼んでいる。

 お母さんの足元で、ヨウちゃんは横たわっていて、地面に右ほおをつけている。


 チラチラと銀色のりんぷんが、夜空へあがっていくのが見えた。

 妖精たちの羽が、虹色の輪の中に消えていく。


 ……帰っていくんだ……。


 妖精の世界へ。



「……綾。もとにもどれたのか……?」


 かすれた声にハッとなって、あたしは庭の小路にかけ寄った。

 お母さんに背中を支えられて、ヨウちゃんが胸を持ちあげてる。



次のページに進む

前のページへ戻る


にほんブログ村


児童文学ランキング

スポンサーサイト



Comment 0

What's new?