
ぶつぶつ言っていたら、ふっと頭の上に影ができた。
「どうした、綾(あや)?」
見あげると、真央(まお)ちゃんの、大福みたいにふっくらした顔があった。
いつものやさしい小さな目。くしゃくしゃやわらか、天然パーマのボブ頭。
「綾ちゃん、いっしょにお弁当食べよ」
有香(ありか)ちゃんもやってきて、あたしの横にビニールシートを広げだす。
黒いつやつやの髪を、ふたつにむすんで胸にたらして。黒縁メガネの下の目は切れ長。
有香ちゃんは、同じ年なのに、あたしより年上のオネエサマみたい。
ホッとしたとたんに、両目から、涙がドバ~。
「真央ちゃん、有香ちゃ~ん! あ、あ、あたし、お、お弁当、わすれちゃったぁ~」
「え~? 綾、ま~た、ドジったのか~?」
「しょうがないな~。綾ちゃん、わたしのお弁当わけてあげる」
有香ちゃんは、バレエ仕込みの背筋をぴんとのばして正座して、自分のお弁当箱をあけた。
「あ。有香の、すごいうまそ! エビフライに頭ついてんじゃん!」
真央ちゃんも、お弁当箱を開けながら、もう箸をくわえてる。
真央ちゃんは女の子なのに男言葉をつかう。態度だって、まんま男の子。デニムのミニスカートで、でーんって、あぐらをかいて。むっちむちの太ももが見えちゃってても、ぜんぜん気にしてない。
「ほら、綾には、うちのミートボールと、おいなりさんやるよ」
「わたしからは、ミニトマトと、カボチャの煮つけと。あとウインナー」
真央ちゃんが貸してくれたお弁当のふたに、次々増えていくおすそわけ。
「うえ~ん! 真央ちゃん、有香ちゃん! ありがと~」
胸がじ~んとして、それだけでもうお腹がいっぱい。
「次は、気をつけなよ」
「うん! うんっ! 気をつけるっ!」
「って、言って、またなにかやらかすのが、綾なんだよな~」
「ひど~い、真央ちゃ~ん」
真央ちゃんてば、ゲラゲラ笑ってる。
あたしと真央ちゃんと有香ちゃん。小学校に入って以来の友だち。
おまけに、六年の女子の中で、中条を好きじゃない貴重な三人組。
だから、結束はかたい。
「そういえば、綾ちゃん。午後からがんばってね」
「え? ……えっと? なにを?」
あたし、首をかしげて、アホ毛をくるん。
「班行動で、浅山の遺跡を調べるんでしょ。綾ちゃん、中条の班じゃん」
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