《5》 真夜中のダンスパーティー 9 - ナイショの妖精さん1
fc2ブログ

《5》 真夜中のダンスパーティー 9

  04, 2018 19:22
2018112401



「……ヨウちゃん……」


 琥珀色の目と、目が合ったとたん、あたしの体はとまっちゃった。
 チョウの羽をパタパタと動かしているだけで、妖精たちといっしょに踊れない。

 だって、玄関のポーチに立ちすくむ、ヨウちゃんの目。真っ赤に染まって、うるんでる。


「……綾……行くのか……?」


 ヨウちゃんののどぼとけが、ごくっとさがった。


「本当に……そっちの世界に行くのか……?」



「……あたし……」


 ぶわっと、つむじ風が起こった。

 庭のハーブたちが、パタパタと葉をゆらす。


「わっ!?  ちょ、ちょっと待ってっ!」


 あたしの右手は、少女の妖精にぎゅっとつかまれてる。くるくる、くるくる。回転速い。ベイランドのコーヒーカップに乗っちゃったみたい。

 風の中で少女に目をこらしたら、キレイな青い目がつんととがって、ほっぺたぷっくり。


 あれ? もしかしてこの子、ヤキモチ妬いちゃってる?


「ね、ねぇ。お願い。ちょっとだけ、踊るのやめて。あたし、ヨウちゃんと話がしたいの」


 だけど、スピードはどんどんあがっていく。

 ほかの妖精たちもスピードをあげてきた。


 ピュン! ピュン!


 ハーブの葉の先が、通りすぎる妖精の羽でスパッ、スパッと切れていく。


 う、ウソっ!?  風がカミソリみたいっ!

「い、行くなっ!! 」


 ヨウちゃんがふらふら、こっちに近づいてくる。


「えっ!?  だ、ダメっ! 今、来ちゃあぶないっ!」


 ピュンっと風が、ヨウちゃんの右肩をかすめた。スパッとTシャツのそでが切れる。

 ヨウちゃんは、ハッと、左手で右肩を押さえた。


「チチチチ」


 見ると、少女の妖精は、口を三日月形にあげて笑ってる。


 心臓がイヤな音で鳴った。


 この子……もしかして、ヨウちゃんを近寄れなくするために、スビードをあげたっ!?


 どくん。どくん。どくん。どくん。


 あたしの心臓の音が、夜の闇を支配する。



 あたし、このまま妖精の世界に行くんだ……。



「よ、ヨウちゃんっ!」



 髪の毛を舞い散らす風の外から、「綾ぁっ!! 」ってきこえてきた。


「たしかに、おまえの言うとおりかもしれないっ! 人間の世界なんて、ごちゃごちゃめんどくさいことばっかりなのかもしれないっ!

学校なんて、まわりとくらべられることしかなくて。同じスピードでできることを強要されて! ちょっとでも、遅かったり、人と同じようにできないと、それだけであ~だ、こ~だ指摘されて、コケにされてっ!

こんな場所にとどまるより、新しい場所に行ったほうが、楽しくてラクに暮らせるのかもしれないっ! ……けどっ! ……でも……」


 ヨウちゃんが身を丸めて、突進してきた。

 バチバチ、バチバチ。ほおに腕に肩に足に、一瞬にしてたくさんの切り傷がつく。


「や、ヤダっ! やめてっ!!」


 なのに、ヨウちゃん。ぎゅっと顔をしかめて、まだつっこんでくる。

 手がのびて来た。大きな硬くて太い腕。

 右手がしっかりつかんでいるのは、小ビンに入った虹色の液体。


 ……薬……できたんだ……。



「……オレがいるじゃねぇか」



 眉をしかめて。ほっぺたに傷をつくって。琥珀色の瞳が、勝気に笑った。




次のページに進む

前のページへ戻る


にほんブログ村


児童文学ランキング
スポンサーサイト



Comment 0

What's new?