《5》 真夜中のダンスパーティー 7 - ナイショの妖精さん1
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《5》 真夜中のダンスパーティー 7

  01, 2018 21:10
2018112401



「……仲間をさがしに行かなくちゃ」


 あたしも、羽を羽ばたかせて、書斎から出ていった。

 一階のお店をのぞきこんだら、ヨウちゃんのお母さんが、ひとりでテーブルをふいていた。


 ヨウちゃんは、自分の部屋かな……?


 二階へあがったことなんかない。二階はたぶん、中条家のすごくプライベートな空間。

 あたしみたいな「くされ縁で、友だち?」みたいなヤツが、ぜったいにのぞいちゃいけない場所。


 最後にこっそり、お別れだけさせて。

 あたしのことは、ただのチョウだと思ってくれていいから。


 ふわふわ銀色の羽で、階段をのぼっていったら、二階の廊下の奥に、うっすらと明かりがもれていた。

 部屋がふたつならんでいて、奥の部屋のドアが半分開いてる。

 あたしはふわふわ、廊下を飛んで、奥のドアをのぞいてみた。


 月明かりの照らす部屋に、ベッドがひとつ置いてある。お母さんがつかってるんだろう鏡台と、たんすがひとつずつ。


 ベッドのふちに、ヨウちゃんがひざまずいていた。

 ふとんに顔をふせて、肩を震わせている。


 ドキンと心臓が鳴った。


 ふとんの中で目を閉じているのは、あたし。



「……くそ……どうすればいいんだよ……」


 ヨウちゃんがつぶやいた。


「できねぇよ……つか、もし薬ができたところで、本当に『浄化』の薬で、綾がもとにもどるのか? それにあいつを……どうやって、説得したらいいんだよ……」


 ヨウちゃんがしゃくりあげる。
 あたしが寝ているふとんの上に、ぽたぽた涙のしずくが落ちていく。


「なんで言えば、伝わる……? 綾……っ! おまえ、なんて言えば、もどってきてくれるんだっ!?」


 ……ヨウちゃん……。


 胸がぎゅ~っと、つぶされそうになった。


 どうしよう、あたし、なんにも考えてなかったっ!

 自分のことしか、考えてなかったっ!


 あたしは部屋から飛び出した。

 バタンと、背中でドアの閉まる音がした。

 足音がトントン階段をおりてくる。あたしがあわてて天井に張りつくと、ヨウちゃんは気づかずに、地下までおりていった。

 丸めた背中を飲み込んで、書斎のドアがまた閉まる。


 ウソ……まだ、あの薬に挑戦する気……?


 あたし、ヨウちゃんは、なんでもかんたんにやっちゃう人だって思ってた。

 スポーツなんて学年のトップだし。「得意じゃない」って言いながらも、リコーダーもふつうに吹けてたし。人をサクサク仕切っていけちゃう。


 そんなこと、ないんだ……。


 挑戦して、失敗して。挑戦して、失敗して。あきらめかけて、それでも挑戦して――。


 ヨウちゃんだって、がんばってるんだ……。


「……綾ちゃん……?」


 すぐ横で声がした。

 ハッと顔をあげると、ヨウちゃんのお母さんが、お店のカウンターからとびだしてきていた。

 一階の階段のところに、ふわふわと飛んでいるあたしを、目でおろおろと追っている。


「……み、見えるんですか……?」


「綾ちゃんっ!?  綾ちゃんなのねっ! 本当にっ!  妖精のっ!! 」


 お母さんのほっぺたに、ぽっくりエクボができる。


「スゴイっ! スゴイわっ!!  カワイイっ! チョウチョの羽、キレ~イっ!!  ヨウちゃん、ヨウちゃーんっ!!  綾ちゃんがっ!」

「わっ!?  ご、ごめんなさい! さようならっ!」


 あたしはパッと、はばたいた。お店の窓のすきまから、夜の庭へ。


 だって、どんな顔して、会えばいいのかわかんないっ!



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