
「……仲間をさがしに行かなくちゃ」
あたしも、羽を羽ばたかせて、書斎から出ていった。
一階のお店をのぞきこんだら、ヨウちゃんのお母さんが、ひとりでテーブルをふいていた。
ヨウちゃんは、自分の部屋かな……?
二階へあがったことなんかない。二階はたぶん、中条家のすごくプライベートな空間。
あたしみたいな「くされ縁で、友だち?」みたいなヤツが、ぜったいにのぞいちゃいけない場所。
最後にこっそり、お別れだけさせて。
あたしのことは、ただのチョウだと思ってくれていいから。
ふわふわ銀色の羽で、階段をのぼっていったら、二階の廊下の奥に、うっすらと明かりがもれていた。
部屋がふたつならんでいて、奥の部屋のドアが半分開いてる。
あたしはふわふわ、廊下を飛んで、奥のドアをのぞいてみた。
月明かりの照らす部屋に、ベッドがひとつ置いてある。お母さんがつかってるんだろう鏡台と、たんすがひとつずつ。
ベッドのふちに、ヨウちゃんがひざまずいていた。
ふとんに顔をふせて、肩を震わせている。
ドキンと心臓が鳴った。
ふとんの中で目を閉じているのは、あたし。
「……くそ……どうすればいいんだよ……」
ヨウちゃんがつぶやいた。
「できねぇよ……つか、もし薬ができたところで、本当に『浄化』の薬で、綾がもとにもどるのか? それにあいつを……どうやって、説得したらいいんだよ……」
ヨウちゃんがしゃくりあげる。
あたしが寝ているふとんの上に、ぽたぽた涙のしずくが落ちていく。
「なんで言えば、伝わる……? 綾……っ! おまえ、なんて言えば、もどってきてくれるんだっ!?」
……ヨウちゃん……。
胸がぎゅ~っと、つぶされそうになった。
どうしよう、あたし、なんにも考えてなかったっ!
自分のことしか、考えてなかったっ!
あたしは部屋から飛び出した。
バタンと、背中でドアの閉まる音がした。
足音がトントン階段をおりてくる。あたしがあわてて天井に張りつくと、ヨウちゃんは気づかずに、地下までおりていった。
丸めた背中を飲み込んで、書斎のドアがまた閉まる。
ウソ……まだ、あの薬に挑戦する気……?
あたし、ヨウちゃんは、なんでもかんたんにやっちゃう人だって思ってた。
スポーツなんて学年のトップだし。「得意じゃない」って言いながらも、リコーダーもふつうに吹けてたし。人をサクサク仕切っていけちゃう。
そんなこと、ないんだ……。
挑戦して、失敗して。挑戦して、失敗して。あきらめかけて、それでも挑戦して――。
ヨウちゃんだって、がんばってるんだ……。
「……綾ちゃん……?」
すぐ横で声がした。
ハッと顔をあげると、ヨウちゃんのお母さんが、お店のカウンターからとびだしてきていた。
一階の階段のところに、ふわふわと飛んでいるあたしを、目でおろおろと追っている。
「……み、見えるんですか……?」
「綾ちゃんっ!? 綾ちゃんなのねっ! 本当にっ! 妖精のっ!! 」
お母さんのほっぺたに、ぽっくりエクボができる。
「スゴイっ! スゴイわっ!! カワイイっ! チョウチョの羽、キレ~イっ!! ヨウちゃん、ヨウちゃーんっ!! 綾ちゃんがっ!」
「わっ!? ご、ごめんなさい! さようならっ!」
あたしはパッと、はばたいた。お店の窓のすきまから、夜の庭へ。
だって、どんな顔して、会えばいいのかわかんないっ!
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