《5》 真夜中のダンスパーティー 6 - ナイショの妖精さん1
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《5》 真夜中のダンスパーティー 6

  30, 2018 22:15
2018112401




「あっ! くそっ!!  また失敗かよっ!」


 ヨウちゃんの声が荒れてきた。

 本の陰からのぞいたら、つくえの上に、失敗作の小ビンが増えていた。

 さっきまで、二個くらいだったのが、もう五個。


 ヨウちゃん、ガンってイスを蹴って、八つ当たり。さらにはこぶしでドンって、つくえをたたいてる。


 ……だ、だいじょうぶ……?


 つくえの上にちらばっていたヒソップの山が、いつの間にか五分の一くらいにまで減ってるし。




 何度目かのおなべに、火を入れる音がした。

 ボンベの火が燃える、しゅうしゅういう小さな音。


 そういえば、ヨウちゃんの声、もう何十分もきいてない……。


 ヨウちゃんはこっちに背を向けて、なべの中を見ている。

 Tシャツの肩がちぢこまってる。いつになく細っこくて、かよわい感じ。


 つかれたよね……。


 だって、失敗作のビンはもう、十個近くも転がってる。


「……失敗……」


 カチッと、コンロのつまみを切る音がした。だけど、それ以上、音がきこえてこない。


 どうしよう。ヨウちゃんが枯れ枝になっちゃったみたい。両手をぶらさげて、立ちつくしてる。

 ズッと鼻をすする音がきこえた。と、思ったら、ヨウちゃん、左腕で目元をぬぐって、歩き出した。


 ……え? どこに……?


 大またで、書斎から出ていく。ドアも開けっぱなしで、階段をのぼっていく。


 ……行っちゃった。


 おなべには、茶色い液体がのこったまんま。
 つくえの上には、失敗作のビンがちらばったまんま。


「しょうがないよね……あきらめたって……」


 あたしだったら、とっくに投げ出してる。

 だって、温度も分量もぜんぶ正確じゃないと、薬にならないんだよ?

 濃縮率なんて、ヨウちゃん、何度がんばっても、合わなかった。


「……そっか。あたし……永遠にこのままなんだ……」


 いいんだけど。妖精になれたんだから。



 ……いいんだけど。



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