
「あっ! くそっ!! また失敗かよっ!」
ヨウちゃんの声が荒れてきた。
本の陰からのぞいたら、つくえの上に、失敗作の小ビンが増えていた。
さっきまで、二個くらいだったのが、もう五個。
ヨウちゃん、ガンってイスを蹴って、八つ当たり。さらにはこぶしでドンって、つくえをたたいてる。
……だ、だいじょうぶ……?
つくえの上にちらばっていたヒソップの山が、いつの間にか五分の一くらいにまで減ってるし。
何度目かのおなべに、火を入れる音がした。
ボンベの火が燃える、しゅうしゅういう小さな音。
そういえば、ヨウちゃんの声、もう何十分もきいてない……。
ヨウちゃんはこっちに背を向けて、なべの中を見ている。
Tシャツの肩がちぢこまってる。いつになく細っこくて、かよわい感じ。
つかれたよね……。
だって、失敗作のビンはもう、十個近くも転がってる。
「……失敗……」
カチッと、コンロのつまみを切る音がした。だけど、それ以上、音がきこえてこない。
どうしよう。ヨウちゃんが枯れ枝になっちゃったみたい。両手をぶらさげて、立ちつくしてる。
ズッと鼻をすする音がきこえた。と、思ったら、ヨウちゃん、左腕で目元をぬぐって、歩き出した。
……え? どこに……?
大またで、書斎から出ていく。ドアも開けっぱなしで、階段をのぼっていく。
……行っちゃった。
おなべには、茶色い液体がのこったまんま。
つくえの上には、失敗作のビンがちらばったまんま。
「しょうがないよね……あきらめたって……」
あたしだったら、とっくに投げ出してる。
だって、温度も分量もぜんぶ正確じゃないと、薬にならないんだよ?
濃縮率なんて、ヨウちゃん、何度がんばっても、合わなかった。
「……そっか。あたし……永遠にこのままなんだ……」
いいんだけど。妖精になれたんだから。
……いいんだけど。
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