
ヨウちゃん、「はぁ」って前髪をかきあげて、横たわっている人間のあたしのとなりで、足をくずした。
「つまり、こういうことだ。綾はふつうの人間の間に産まれた、人間の子。だけど、アホだから、とうさんがくれた妖精のタマゴを、アメとまちがえて、腹ん中に入れてしまった。
妖精のタマゴが孵るまでの期間は、八年。とうさんはその八年が、綾が自分に自信をつける期間にあたるんじゃないかと思った。八年たって、綾の持っていたタマゴから妖精が孵るとき、綾も自信を持って、自分の道を進んで行けるようになる。
なかなか、ロマンチックな計画だろ? とうさんは、そうなってほしいと願って、綾に大事なタマゴをたくした。
……で。八年たって。タマゴを飲み込んだアホっ子の腹から、妖精が孵って、今のおまえになった……」
ヨウちゃん、右腕にとまったあたしを、じろ~っとにらむ。
う……怖い。
冷めた琥珀色の目が、奈良の大仏の目並みにでっかくて、冷え冷え感、倍増!
「……なによぅ。けっきょくあたし、妖精になれたんだから、結果オーライじゃん」
「なにが、結果オーライだ。とにかくオレは、おまえを、もとの体にもどす方法を考える。おまえも来い」
「え? え~っ!? 」
あたしはパッと、ヨウちゃんの腕から飛び立った。
アゲハチョウの形の羽で、銀色の光をまき散らしながら、ふわっふわっと上空にあがる。
「あたし、人間になんかもどらないっ! せっかく妖精になれたんだから、このまま、妖精の世界に行くっ!! 」
「ば、バカっ! おまえは、まだそんなことをっ!」
ヨウちゃんが追いかけてくる。上ばっかり見あげてるから、ヒースの葉っぱに足を取られて、何度も転びそうになってる。
「綾、わかってんのかっ!? この異常な状況をっ! 夢とか妄想の世界じゃないんだぞっ!! 今のおまえは、虫と同じなんだっ! チョウ並みに無力な存在なんだよっ! ネコに襲われるかもしれないし、鳥に襲われるかもしれないっ! つ~か、カマキリくらいにだって、やられるんだっ! アホな幻想抱いてないで、とっとと人間にもどらないと、マジで死ぬぞっ!! 」
「だいじょうぶだもんっ! ネコパンチが来たら、サッと避けるし、鳥が来たらすごいスピードで逃げるもん。カマキリになんか、つかまらないも~んっ!」
あっかんべ~したら、もう木のてっぺんまで来ていた。
下でヨウちゃん、あたしをさがして、キョロキョロしてる。
枝と葉っぱの影でじっとしていたら、ヨウちゃんは、あきらめたみたいに、花畑を引き返していった。
しばらく見ていたら、またお花畑からこっちにやってくる。
背負っている大きな荷物は、人間のあたし。
あたし、クラスの中で一番、体重が軽いんだけど。それでもヨウちゃん、重たそう。数歩、歩いて、立ちどまって。あたしの体を、自分の背中に押しあげ直して。また歩き出す。
キュンって胸、鳴った。
……ごめんね。
でも……あたし、まだ夢の中にいたいんだ……。
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