《5》 真夜中のダンスパーティー 3 - ナイショの妖精さん1
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《5》 真夜中のダンスパーティー 3

  26, 2018 22:32
2018112401


 ヨウちゃん、「はぁ」って前髪をかきあげて、横たわっている人間のあたしのとなりで、足をくずした。


「つまり、こういうことだ。綾はふつうの人間の間に産まれた、人間の子。だけど、アホだから、とうさんがくれた妖精のタマゴを、アメとまちがえて、腹ん中に入れてしまった。

妖精のタマゴが孵るまでの期間は、八年。とうさんはその八年が、綾が自分に自信をつける期間にあたるんじゃないかと思った。八年たって、綾の持っていたタマゴから妖精が孵るとき、綾も自信を持って、自分の道を進んで行けるようになる。

なかなか、ロマンチックな計画だろ? とうさんは、そうなってほしいと願って、綾に大事なタマゴをたくした。

……で。八年たって。タマゴを飲み込んだアホっ子の腹から、妖精が孵って、今のおまえになった……」


 ヨウちゃん、右腕にとまったあたしを、じろ~っとにらむ。


 う……怖い。


 冷めた琥珀色の目が、奈良の大仏の目並みにでっかくて、冷え冷え感、倍増!


「……なによぅ。けっきょくあたし、妖精になれたんだから、結果オーライじゃん」

「なにが、結果オーライだ。とにかくオレは、おまえを、もとの体にもどす方法を考える。おまえも来い」


「え? え~っ!? 」


 あたしはパッと、ヨウちゃんの腕から飛び立った。

 アゲハチョウの形の羽で、銀色の光をまき散らしながら、ふわっふわっと上空にあがる。


「あたし、人間になんかもどらないっ! せっかく妖精になれたんだから、このまま、妖精の世界に行くっ!! 」


「ば、バカっ! おまえは、まだそんなことをっ!」


 ヨウちゃんが追いかけてくる。上ばっかり見あげてるから、ヒースの葉っぱに足を取られて、何度も転びそうになってる。


「綾、わかってんのかっ!?  この異常な状況をっ! 夢とか妄想の世界じゃないんだぞっ!!  今のおまえは、虫と同じなんだっ! チョウ並みに無力な存在なんだよっ! ネコに襲われるかもしれないし、鳥に襲われるかもしれないっ! つ~か、カマキリくらいにだって、やられるんだっ! アホな幻想抱いてないで、とっとと人間にもどらないと、マジで死ぬぞっ!! 」

「だいじょうぶだもんっ! ネコパンチが来たら、サッと避けるし、鳥が来たらすごいスピードで逃げるもん。カマキリになんか、つかまらないも~んっ!」


 あっかんべ~したら、もう木のてっぺんまで来ていた。

 下でヨウちゃん、あたしをさがして、キョロキョロしてる。

 枝と葉っぱの影でじっとしていたら、ヨウちゃんは、あきらめたみたいに、花畑を引き返していった。


 しばらく見ていたら、またお花畑からこっちにやってくる。

 背負っている大きな荷物は、人間のあたし。

 あたし、クラスの中で一番、体重が軽いんだけど。それでもヨウちゃん、重たそう。数歩、歩いて、立ちどまって。あたしの体を、自分の背中に押しあげ直して。また歩き出す。


 キュンって胸、鳴った。


 ……ごめんね。

 でも……あたし、まだ夢の中にいたいんだ……。





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