《4》 羽開くとき 10 - ナイショの妖精さん1
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《4》 羽開くとき 10

  23, 2018 20:45
20181108



「……綾……」


 だって……だってね。

「妖精の世界に行くこと」は、あたしの救い。

 どんなにアホっ子でも、ドンくさくても。ちゃんとどこかには、自分の居場所があるんだって、安心していられること。


 それがなくなったら、あたし……どうしたらいいの……?



「ヤダぁ~っ!!  あたしは妖精だもん~っ!! 」



 ぶわっと、背中で風が吹いた。

 冷たい風。

 窓のカーテンを舞いあげて、あたしの体のまわりに、竜巻みたいな渦をつくる。


 バラバラと髪の毛が乱れた。

 ひざのところで、白いワンピースのすそがひらめく。



「……あ……や……?」



 間の抜けた声がした。

 顔をあげると、教室の真ん中で、ヨウちゃんが目を見開いていた。

 足を支えるスイッチが切れたみたいに、ストンと腰から、ゆかにへたりこむ。

 あたしに向けられてる、琥珀色の目。ふわふわゆれて、さだまらない。


「お……お、おまえ……はね……」



 羽――?



 あたしは、教室の窓に背を向けて立っていた。

 両肩の後ろに、ヨットの帆のようなものが、ピンと大きく張られていく。

 その帆の放つ光が、あたしの肩やほっぺたやワンピースを、銀色に照らしだす。





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 羽……。


 銀色をした、大きな、アゲハチョウの羽。


 背中の筋肉の力を抜いてみる。
 左右同時に、羽がゆっくりと、広がる。

 今度はきゅっとちぢめてみる。羽がゆっくりと閉じる。

 チカチカ、チカチカ……。

 あたしの肩に頭に、銀色のりんぷんがふりそそぐ。


 足の力が抜けた。

 見おろしたら、うわばきとゆかの間に、数センチのすき間ができていた。


 ……え?


 はばたくごとに、すき間は十センチ、二十センチと増えていく。


 う、浮かんでる……?



「綾、待て……」


「来ないでっ!」


 あたしは、ぐっと羽に力を込めた。

 ぶわっと風が吹く。


「っ!」


 風の直撃を受けて、ヨウちゃんが一瞬、目を閉じる。

 その間に、羽が起こした風にのって、あたしは宙に舞いあがった。

 開いた窓から抜け出して、空へ。


「あ、綾ぁっ!! 」


 自分の足の何十メートルも下。

 窓から身をのりだしたヨウちゃんが、三階の教室が、その上の屋上が。模型みたいに小さく見えた。




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