
「リン~、今から教室にもどるの~?」
教室の外から、女子の声がきこえてきて、あたしはハッと顔をあげた。
「ごめん、ちょっとわすれもの~。先、帰ってて~」
リンちゃんの声と、足音が、廊下を近づいてくる。
ヤダっ! 今、リンちゃんと顔合わせたくないっ!
「――あれ? 倉橋?」
廊下から、別の低い声もした。
……ヨウちゃん……。
教室の後ろのドアに近寄っていって、あたしはそっと、ドアの窓から、廊下をのぞいた。
廊下で、ヨウちゃんと、リンちゃんが向かい合ってる。
ヨウちゃんは、西階段を二階からあがってきたみたい。
リンちゃんは、廊下を東からかけてきたみたい。
「なんだ。倉橋もまだ学校にのこってたのか。綾……じゃなくて、和泉がどこにいるか知らねぇ? ランドセルは教室にあるんだけど、ずっと見つかんなくてさ」
ポリポリ後ろ頭をかくヨウちゃんに、リンちゃん、きゅっとくちびるをかんだ。
「……知らない」
え~? ちょっとぉ!
自分が屋上に呼びだして、あたしのこと、いじめたんじゃない~っ!
「そんな人のことより、中条君。わたしききたいことがあるの。――中条君て、好きな人いるの?」
……えええっ!?
あたし、ひょっこり、窓から顔をのりだしちゃった。
って、バッチリ、リンちゃんと目が合っちゃったし。
サイアク。
リンちゃんは、ヨウちゃんの背中越しに、ギロってあたしをにらんでくる。
窓に背を向けたヨウちゃんは、教室の中のあたしに気づいてない。首後ろに手を置いて、「……え?」とかマヌケな声。
「好きな人がいないなら、わたしとつきあって」
うわっ!? 直球っ!
リンちゃんはもう、あたしなんか気にしてない。ほっぺたを桃みたいに染めて、うつむいている。
「わたしが、中条君のことを好きになったのは、四年生のときだよ。球技大会中に、わたし、お腹が痛くて、動くのもつらくなっちゃったの。だけど、わたしがチームの中で一番、バスケができたから、ぜったいに抜けられないって、意地になってた。
そしたら、中条君だけが、気づいてくれたの。『大会より、自分の体を心配しろ』って、選手をかわってくれた。うれしかったんだ……」
「……そんなこと、あったか?」
「うん。わすれてると思ってた。あのころは、まだ中条君も身長、真ん中辺だったし。中条君のカッコよさが、今みたいに広まってなかったから、わたしが独占できると思ったんだけどね。もう、『みんなの中条君』になっちゃったから、ちょっとさびしいかな」
……リンちゃん……そうだったんだ……。
ドラマとかマンガの男の人に、ヨウちゃんを重ねあわせて、妄想で楽しんでたわけじゃなかったんだ。
本気で、ヨウちゃんのこと好きだったんだ……。
「ね? 中条君、いいでしょ? わたし、これ以上、『みんなの中条君』で満足してらんないの! 抜けがけでもいい! 中条君を独り占めしたいのっ!! 」
なんかヘン。見えない手で、心臓をぎゅっと、わしづかみにされてるみたい。
だって、リンちゃん……カワイイ……。
さっきの鬼のリンちゃんとは、まるきり別人。
ほっぺたを真っ赤にして。目をうるうるにして。泣きそうになりながら、ヨウちゃんを見あげてる。
こんなの、あたしが男子だったら、ぜったいに抱きしめちゃうよっ!
ヨウちゃんは、どうするの……?
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