
「――それで。和泉さんてば、永井さんとケンカしちゃったんだって~」
「河瀬さんもこまっちゃったみたいなんだけど~。けっきょく、永井さん側についちゃって。和泉さん、今、ひとりぼっち~」
「うっそ~、かっわいそ~っ!! 」
屋上で、女子たちがゲラゲラと笑ってる。
空は、ぼんやりうす曇り。
あたしは知らんぷりで、屋上のフェンスから、校庭を見おろしていた。
下校する子どもたちが、校庭をにぎわしている。
中に、ランドセルを背負って歩く、有香ちゃんと真央ちゃんの姿を見つけた。校舎に背を向けて、校門から住宅街へ出ていく。
「ちょっと、和泉さんってば、きいてんのっ!? 人がしゃべってんだから、無視しないでくれるっ?」
あんまりうるさいからふり返ったら、リンちゃんが、あたしの前に仁王立ちして、ツインテールの髪を、肩の後ろにかきあげていた。
「あ~、ムリムリ。和泉さんは、今、ショックでしゃべれません。ほら、朝、中条君にお手紙もらっちゃってさ。てっきり告白されるんだと思って、のこのこ屋上に来てみたら、かわりにうちらがいたから。がっかり~って」
青森さんの声に、女子たち、さらに大笑い。
一、ニ、三、四人。
ちょっとホッとしたのは、あたしをだましたのが、クラスののこりの女子全員じゃなくって、リンちゃんのすぐそばにいる子たちだけってことかな。
「べつに。告白だなんて、思ってなかったもん。それにヨウちゃんが、こんなピンクの封筒で、お手紙出すとも思えないし」
あたしは、ぷうってほっぺたをふくらまして、リンちゃんに封筒をつき返した。
今朝、くつだなから、この封筒が落ちてきたときの違和感は、コレだったんだ。
でも、「大事な話がある」って、ヨウちゃんに言われたのも本当……。
「な~に? やせガマンしちゃって。アホっ子のくせに!」
「いっつも、河瀬さんや永井さんの後ろでちぢこまってんのにさ~」
「中条君のこと、『ヨウちゃん』とかって、ウザいんだよ! 中条君もこまってんの、気づけよっ!! 」
リンちゃんの腕がのびてきて、パンッと、あたしの胸を平手打ちした。
あたしはよろけて、屋上のフェンスに、背中をガシャンっ!
「……イタっ!」
「わかったかっ!! コレに懲りたら、二度と、中条君に近づくなっ!」
ぞっとした。
リンちゃんのゆがんで笑った口元に、犬歯と歯ぐきがのぞいてる。
「あんたは、そこで反省しときな!」
屋上のドアを開けて、女子たちは階段にもどっていく。
……なにこれ……? 集団リンチ……?
あたしはフェンスにずるずるともたれて、屋上にしゃがみ込んだ。
背中に吹きつける風が冷たい。
泣けてくるほど、冷たい。
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