
三人で教室に入ると、窓際から、女子たちのひそひそ笑いがきこえてきた。
あたしを見たとたんに、リンちゃんは青森さんと目配せ。そうしたら、青森さんの太い眉毛がひそまった。もっと冷ややかな笑いに、女子たちは包まれる。
「……マズイな」
真央ちゃんが言うと、有香ちゃんもうなずいた。
「……うん。これはちょっとマズイかも……」
ふたりに連れられて、あたしは廊下側の真央ちゃんの席の前に、座らされる。
「綾……ぶっちゃけきくけど。最近、どうしてそんなに中条と仲がいいんだ?」
「……え?」
なんかドキっ!
「綾ちゃんて、中条のことが好きなの?」
「え、ええっ!? ち、ち、ちがうよっ!! 」
おかしなこと言われたら、夢のヨウちゃん、思い出しちゃうっ!
「た、た、ただの友だちっ!! って言うか、校外学習からのくされえん?」
「くされ縁ならさ、切っちゃったっていいよね?」
あたしは、ごくっとつばを飲み込んだ。
「……有香ちゃん……?」
向かいを見たら、両手に丸いほっぺをのせて、真央ちゃんまでうなずいている。
「女子たちの中条への執着ってスゴイだろ? 特にリン。それがこのごろ、中条がなにかと綾にかまうから、あいつらイラついてんだよ」
「だけど、今までだって、あたし、リンちゃんたちに悪口言われてたよ?」
「今までとはちがうだろ? 今までは綾がドジしたことについて、あーだこーだ言ってたけど。今なんか、綾が教室に入っただけで、悪口言いはじめたぞ」
「わたしね、ちょっと怖いんだ……。女子たちがエスカレートしたら……。ね、大ごとになる前に、綾ちゃん、中条と関わるのやめなよ」
「有香ちゃん……真央ちゃん……」
ふたりともやさしい。
あたしのことを、本気で心配してくれてる。
だけど……。
あたしはぎゅっと、ひざの上でこぶしをにぎりしめた。
「ありがとう。有香ちゃん、真央ちゃん。でも、ごめんね。あたし、ヨウちゃんのこと、もっと知りたい……」
妖精でビビリまくる、ヘタレヨウちゃんを見たい。
麦わら帽子をかぶったガーディニングヨウちゃんも見たい。
もっと、もっと、いろんなヨウちゃんを見てみたい。
「なんだ。綾ちゃんも、けっきょく顔かぁ……」
「……え?」
あたしはビクッとして、顔をあげた。
メガネが蛍光灯に反射していて、うつむいている有香ちゃんの目が見えない。
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