
「うわ、和泉(いずみ)さんてば、またやってるよ~」
前のほうから声がした。
「なになに~?」
「今度は、お弁当わすれたみたい」
う……。しっかり、見られてる……。
そっと目をやったら、あたしのビニールシートの向かいに、リンちゃんたちのグループがビニールシートをかためてた。
花田市は田舎町だから、花田市立小学校には、六年が一クラスしかない。男子十一人、女子が十二人。で、その女子のうち九人が、今、同じところに密集してる。
大人数。大所帯。わっさわさ。
「和泉さんてさ。こないだ、パジャマのズボンぬぐのわすれて、スカートの下にはいて学校来てたよね」
「先週の四時間目なんて、和泉さんだけ、理科室来なかったじゃん。あれって、音楽の授業とかんちがいして、ひとりで音楽室で待ってたらしいよ」
「うわ、アホすぎ~。ウっケる~」
グサグサグサ……。
女子たちの声が、矢みたいに、あたしの胸につき刺さってくる。
それはさ、ぜんぶ本当の話なんだけど……。
でも……でも、あたしだって、好きでやってるわけじゃないのに……。
「ね、中条(なかじょう)君。和泉さんたら、今度はお弁当わすれて 、お昼抜きだって~」
リンちゃんが、ツインテールをゆらして、となりを見あげた。
そしたら、女子たちの真ん中で片ひざを立てて座った男子が、石膏みたいに硬そうなほおを、ニヤっとゆがませた。
「またかよ、和泉のヤツ。やっぱ、アホっ子だな。頭のネジが五、六本抜けてんじゃん? 一度、工場に持ってって、修理してもらったほうがよくねぇ?」
中条の言葉に、まわりの九人の女子たち、どっと大笑い。
……ヒドすぎ……。
なによ。自分のほうが、ロボットみたいに冷たい顔して……。
正面切ってにらんだら、やり返されそうで怖いから、うつむいて。あたしは、ぶつぶつつぶやく。
女子の中に、ひとりだけ男子。
だからって、男友だちがいないわけじゃない。
むしろ、男子は自分たちのボスを、女子たちに取られてるっていう感覚だと思う。
中条は、学年で一番背が高くて、足が速くて、スポーツならなんでもできる。
おまけに、とがったあご。鼻筋の通ったキレイな顔立ち。
目は琥珀色をしていて、髪も染めてもないのに琥珀色で、光があたると透きとおっちゃって。
うわさだと、お父さんがイギリス人なんだとか。
五年生の春だったかな。女子たちの間で恋愛話が流行った。そしたらいつの間にか、みんなして、「中条君好き~」になってた。
以来。女子たちは、中条のあとをぞろぞろついてまわってる。
「……だけど、性格悪かったら、イケメン台無しじゃん」
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