
「――うわっ!? 」
あたしは、ふとんからはね起きた。
朝の日差しが、ピンクのカーテン越しに差し込んできている。
ベッドの横には、ハート型の赤い目覚まし時計。右肩にはクマのぬいぐるみ。左肩にはウサギのぬいぐるみ。
見慣れた、いつものあたしの部屋。
「ゆ、ゆ、ゆ、夢っ!? 」
心臓、まだバックバク。ほっぺた、湯気が出ちゃいそうなほどに熱い。
夢ってさ。
ちょっとした、テロだと思う。
だって、あんなの見ちゃったら、イヤでも意識しちゃうじゃん!
登校するだけで、あたしの肩は、緊張でガチンガチン。
一年から六年まで入りまじってワイワイしている昇降口から、そーっと、くつだなをのぞき込んで。
教室に向かう子どもたちの中に、あいつがいないことを確認して。
手早く自分のたなからうわばきを出したら、うわばきの上に乗っていた紙が、パサッと足元に落ちてきた。
……ほぇ?
ピンク色の封筒。
クマの柄のシールをやぶいて開けてみると、ピンクの便箋に紫のラメペンで、丸文字が書かれていた。
《大事な話があります。放課後、屋上に来てください。 中条》
ヨウちゃんから……?
なんだろ?
なんだかわかんないけど、すっごくヘン。
「……綾」
後ろから声をかけられて、アホ毛が、アンテナみたいにピンっとつっ立った。
「よ、ヨウちゃんっ!! お、おはよっ!」
反射的に、封筒を背中に隠して、あたしの目線ふわふわ。
夢のヨウちゃん、思い出しちゃうっ!
ヨウちゃんはぽりっと前髪をかいて、向かいのくつだなを流し見した。
「っと。あのさ。大事な話ができた。放課後……」
「あ、う、うんっ!」
あたし、ガバっとうなずいた。
違和感なんて、やっぱり気のせい。この手紙、まちがいなくヨウちゃんからだ!
「わかってる! もう読んだっ!」
「……え? 読?」
はずかしくて、いっしょにいらんない。
ランドセルをカタカタとゆらして、あたしは、ひとりで教室へ階段をかけあがる。
「綾~、おはよ~」
ポンッと肩をたたかれて、「ひゃあっ!」ってとびはねる。
真央ちゃんだった。
となりには、黒縁メガネをかけた有香ちゃん。
「おはよ~。綾ちゃんそのワンピース、初でしょ? かっわい~」
「あ、うん。こないだママに買ってもらったの。レースがいっぱいだから、なんとなくはずかしくって、今までは着てこなかったんだけど……」
でもね。夢の王子様とダンスするには、似合うと思って……。
なんて、言えない。
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