
――だいじょうぶ。きみの背中には羽がある――
琥珀色の瞳で男の人は言った。
――その羽を、きみ自身が信じられなくなってしまったら、きみの羽は抜けてしまうだろう――
あたしは涙をこぼして、しゃくりあげながら、その人を見あげた。
――羽があることをわすれないで。そうすれば、いつかきっと、きみは空を飛んでいけるから――
おじさんの大きな手が近づいてくる。小さなあたしの手のひらに、真珠みたいなアメが一粒、ころんと置かれる。
「うん、わすれないっ!! あたし、羽があること、ぜったいにわすれないよっ!! 」
「……ああ。わすれてなかったようだな」
あたし、まばたきした。
おじさんのほっぺからしわが消えてる。あごはしゅっとひきしまって、肌は若くなって、つるっつる。
……あれ?
さっきまでの茶色い背広が、虹色の長いマントにかわってる。
ヘンな服。つめえりで、肩にモップみたいなビラビラがついていて。ズボンはもものあたりが、ぶくって、ふくらんでて。白いロングブーツ。
もう一度、ぽかんと見あげたら、中折れ帽子じゃなくて、金色の王冠にかわってた。
ど、どこの国の王子様っ!?
「……綾。恋する音楽、実は効いてたんだ。おまえが好きだ」
両手がのびてきて、あたしの両手をぎゅっとつかむ。
「よ……ヨウちゃん……?」
ドキッとした。
王子様っぽい、ゴージャスなかっこうをしたヨウちゃんの背中に、大きなトンボの羽がある。
「妖精の世界から、おまえを迎えに来た。さあ、いっしょに帰ろう」
えええええ~っ !?

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