
だけど、廊下を男子たちがいっせいに走ってくる音をきいて、あたしの心臓、ビックー。
競馬場で馬がレースをしているみたい。
男子たちの目、目、目。あたししか見えてない。
「も、モテたいけど、こ~いうモテかたじゃない~っ!! 」
昇降口からとびだして、中庭まで来ると、ヨウちゃんは植え込みの裏に、あたしをしゃがみ込ませた。
「和泉~っ!」
「どこ行った~っ!! 」
男子たちが、植え込みの前を通りすぎていく。
もう三時間目がはじまってるんだよね。
どうなっちゃうんだろ……?
「……あの花、つかえるな」
ふっと、首をあげて、ヨウちゃんは植え込みから立ちあがった。
中庭の中央にある花壇に歩いていく。植わっているのは、丈の短い白い小花。マリみたいに集まって、花壇の土が見えなくなるぐらいに、ぽわんぽわんと咲き乱れている。
「アリッサムの花よ、人を惑わす魔力をはねのけろ」
ヨウちゃん、花の細い茎をポキリ。
「ええ~っ!? 緑化委員に怒られちゃうよ~」
「うちにも咲いてるから、あした、苗ごとこっそり植えかえとく。緊急事態だろ?」
アリッサムの花束をつくって、ヨウちゃんがもどってくる。
背が低いお花だから、ミニブーケみたい。
いっしょうけんめいに咲いているたくさんの小花たちが、けなげ。
その小花に、ぽうっと虹色の光が灯っていた。
これ、フェアリー・ドクターの魔法がかかったあかし。
「……綾」
花束があたしの前にさしだされる。
あたしは顔をあげて、花束の後ろを見た。
あれ……? なんだろ? なんだかヘン。
あたしをまっすぐに見おろしてくる琥珀色の目。宝石みたいに澄んでいて、奥から、じんじんあったかい熱を出してる。
心臓がドキドキ鳴り出した。
……そういえば、ヨウちゃんだって、あたしの笛の音をきいたんだよね。
恋する音楽……。
「おまえ、花係だったよな。花、四等分にして、教室の四方に置け」
さっくり。冷めた声。
「……へ?」
「アリッサムには、妖精の魔力を解除する力がある。これをつかえば、あいつらも正気にもどるだろ」
……だよね。
こんな冷血オトコに「恋する音楽」なんて効くわけないよね。
あたしが花束を受け取ると、ヨウちゃんはもう背中を向けて、教室に歩き出していた。
「あ……。ま、待ってっ! あ、あのっ! ヨウちゃん、ありがとうっ!! 」
花束をにぎりしめて、あたしは植え込みの陰から立ちあがった。
「きのう、ヨウちゃんが笛を教えてくれたおかげで、あたし、テストで最後までまちがえないで吹けたっ! 一発オッケーもらったの、はじめてなのっ!! 」

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