《3》 アホっ子ちゃん、がんばる 13 - ナイショの妖精さん1
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《3》 アホっ子ちゃん、がんばる 13

  06, 2018 22:27
2018102201



 だけど、廊下を男子たちがいっせいに走ってくる音をきいて、あたしの心臓、ビックー。

 競馬場で馬がレースをしているみたい。
 男子たちの目、目、目。あたししか見えてない。


「も、モテたいけど、こ~いうモテかたじゃない~っ!! 」


 昇降口からとびだして、中庭まで来ると、ヨウちゃんは植え込みの裏に、あたしをしゃがみ込ませた。


「和泉~っ!」

「どこ行った~っ!! 」


 男子たちが、植え込みの前を通りすぎていく。

 もう三時間目がはじまってるんだよね。
 どうなっちゃうんだろ……?


「……あの花、つかえるな」


 ふっと、首をあげて、ヨウちゃんは植え込みから立ちあがった。

 中庭の中央にある花壇に歩いていく。植わっているのは、丈の短い白い小花。マリみたいに集まって、花壇の土が見えなくなるぐらいに、ぽわんぽわんと咲き乱れている。


「アリッサムの花よ、人を惑わす魔力をはねのけろ」


 ヨウちゃん、花の細い茎をポキリ。


「ええ~っ!?  緑化委員に怒られちゃうよ~」

「うちにも咲いてるから、あした、苗ごとこっそり植えかえとく。緊急事態だろ?」


 アリッサムの花束をつくって、ヨウちゃんがもどってくる。

 背が低いお花だから、ミニブーケみたい。
 いっしょうけんめいに咲いているたくさんの小花たちが、けなげ。

 その小花に、ぽうっと虹色の光が灯っていた。

 これ、フェアリー・ドクターの魔法がかかったあかし。


「……綾」


 花束があたしの前にさしだされる。

 あたしは顔をあげて、花束の後ろを見た。


 あれ……? なんだろ? なんだかヘン。


 あたしをまっすぐに見おろしてくる琥珀色の目。宝石みたいに澄んでいて、奥から、じんじんあったかい熱を出してる。


 心臓がドキドキ鳴り出した。


 ……そういえば、ヨウちゃんだって、あたしの笛の音をきいたんだよね。


 恋する音楽……。


「おまえ、花係だったよな。花、四等分にして、教室の四方に置け」


 さっくり。冷めた声。


「……へ?」


「アリッサムには、妖精の魔力を解除する力がある。これをつかえば、あいつらも正気にもどるだろ」


 ……だよね。

 こんな冷血オトコに「恋する音楽」なんて効くわけないよね。


 あたしが花束を受け取ると、ヨウちゃんはもう背中を向けて、教室に歩き出していた。


「あ……。ま、待ってっ! あ、あのっ! ヨウちゃん、ありがとうっ!! 」


 花束をにぎりしめて、あたしは植え込みの陰から立ちあがった。


「きのう、ヨウちゃんが笛を教えてくれたおかげで、あたし、テストで最後までまちがえないで吹けたっ! 一発オッケーもらったの、はじめてなのっ!! 」



2018092213






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