
クラス中、耳を押さえて「ぎゃ~っ!! 」
うう、しょっぱなから、やっちゃったっ!
目をつぶって、「レレレミレ」って吹きながら、ヨウちゃんに言われたことを思い出していた。
ひとつの音を吹くたびに、頭の中で「1」ってかぞえる。のばすところは「1、2」。
小節がかわるときは、吹くのを休んで「1」。
ゆっくり、ゆっくり。秒針を読みあげる感覚で。
最後に「ソー」って吹いて、目を開けたら、先生が名簿表に顔を落としながら「はい、オッケー」って言った。
や、やったぁ~っ!!
一発オッケーなんてはじめて!
いつもは三回くらいテストを受け直して、最終的には先生にあきらめられて終わるのにっ!
「綾ちゃん、がんばったじゃん~っ !!」
休み時間。音楽室から帰った、六年生の教室で。あたしは、有香ちゃんと真央ちゃんにかこまれた。
「すっげ~、ゆっくりだったけど、まちがえないで、最後まで吹ききったもんな。早送りすればきっと『カントリー・ロード』にきこえてたよ」
真央ちゃんの「早送りすれば」ってとこが引っかかるけど。
だけど、ふわふわピンクの気持ちは、リンちゃんたちの笑い声に消されちゃった。
「きょうもすっごかったね~! 和泉さんの演奏!」
「のっろ~いの! わたし、牛が歩いてるのを想像しちゃったよ 」
「あれで先生、オッケー出すんだもん。ズルくない~?」
女子たちが、ヨウちゃんのまわりにあつまって、わざと大きな声でしゃべってる。
ドンっと大きな音がして、リンちゃんたちが「わっ 」ってとびのいた。
見ると、ヨウちゃんが組んだ足を、自分のつくえの上にのっけている。
うわ~、行儀悪っ! イスにふんぞり返って、腕組んじゃって。
「綾。きのうのアレ、吹いてみろ」
「……え?」
……「アレ」って、もしかしてあの適当に吹いてた曲のこと……?
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