《3》 アホっ子ちゃん、がんばる 10 - ナイショの妖精さん1
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《3》 アホっ子ちゃん、がんばる 10

  02, 2018 22:30
2018102201



「ヨウちゃん?」


 話しかけたら、ヨウちゃんの肩が、ビクってとびはねた。


 え? ……あたし、なんかした……?


「ね? それって、お母さんが入れてくれたハーブティーでしょ? 飲んでいい?」


 ゆりイスからとびおりて、ヨウちゃんの横に立ったら、ヨウちゃん、ぷいって、わかりやすく、そっぽ向いちゃった。


 え~? なんで怒ってんの~?


「……カモミールティー。初心者にも飲みやすいらしいから」


 よかった。声はおだやか。怒ってるわけじゃないみたい。


 ティーカップには、妖精の絵が描かれてる。キューピーみたいな、幼児体型の妖精ちゃん。ユリの花の茎を、両手で抱えてる。

 さすが、ヨウちゃんのお母さん! カップにもこだわってるっ!

 カモミールティーはほんのり草の香り。太陽を溶かしたみたいなうす黄色。口にふくんだら、リンゴに似たやさしい味。


「綾……さっきの曲は、人前で吹くな」

「え? ……どうして?」


「吹くな」って言われたって、てきとうに吹いてただけだもん。どうせ二度と吹けないんだけど。


 ヨウちゃんはつくえの前にほおづえついて、だまっちゃって。

 いつまで待っても、理由を教えてくれない。





 それからも、「カントリーロード」、一曲だけの練習は続いた。


 あたしは、ゆりイスの手もたれで、ぐったり。

 ヨウちゃんも、お父さんのつくえにのびて、ぐったり。

 

 イヤでも、なんでも、日は明けて。


 音楽のテスト本番。


 五線譜の引かれた音楽室の黒板の前に立って。リコーダーを両手ににぎりしめたら、教室のみんなが見わたせた。

 リンちゃんがとなりの青森さんに、こそこそ耳打ち。ふたりでくすくす笑ってる。

 有香ちゃんはあたしと目が合うと、にっこりしてくれた。真央ちゃんは、肩をまわして、「力を抜け」って、ジェスチャー。

 教室の一番後ろの席の、ヨウちゃんと目が合った。

 う~ん、無反応。しらっと冷めた目で、腕を組んでる。


 本当にきのうのスパルタ教師?


 ヨウちゃんが、こくんとうなずいた。


 ……あ。

 が、がんばるっ!


 リコーダーに口をつけたら、でっかい音が「ビーっ!」




2018092206





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