
「ヨウちゃん?」
話しかけたら、ヨウちゃんの肩が、ビクってとびはねた。
え? ……あたし、なんかした……?
「ね? それって、お母さんが入れてくれたハーブティーでしょ? 飲んでいい?」
ゆりイスからとびおりて、ヨウちゃんの横に立ったら、ヨウちゃん、ぷいって、わかりやすく、そっぽ向いちゃった。
え~? なんで怒ってんの~?
「……カモミールティー。初心者にも飲みやすいらしいから」
よかった。声はおだやか。怒ってるわけじゃないみたい。
ティーカップには、妖精の絵が描かれてる。キューピーみたいな、幼児体型の妖精ちゃん。ユリの花の茎を、両手で抱えてる。
さすが、ヨウちゃんのお母さん! カップにもこだわってるっ!
カモミールティーはほんのり草の香り。太陽を溶かしたみたいなうす黄色。口にふくんだら、リンゴに似たやさしい味。
「綾……さっきの曲は、人前で吹くな」
「え? ……どうして?」
「吹くな」って言われたって、てきとうに吹いてただけだもん。どうせ二度と吹けないんだけど。
ヨウちゃんはつくえの前にほおづえついて、だまっちゃって。
いつまで待っても、理由を教えてくれない。
それからも、「カントリーロード」、一曲だけの練習は続いた。
あたしは、ゆりイスの手もたれで、ぐったり。
ヨウちゃんも、お父さんのつくえにのびて、ぐったり。
イヤでも、なんでも、日は明けて。
音楽のテスト本番。
五線譜の引かれた音楽室の黒板の前に立って。リコーダーを両手ににぎりしめたら、教室のみんなが見わたせた。
リンちゃんがとなりの青森さんに、こそこそ耳打ち。ふたりでくすくす笑ってる。
有香ちゃんはあたしと目が合うと、にっこりしてくれた。真央ちゃんは、肩をまわして、「力を抜け」って、ジェスチャー。
教室の一番後ろの席の、ヨウちゃんと目が合った。
う~ん、無反応。しらっと冷めた目で、腕を組んでる。
本当にきのうのスパルタ教師?
ヨウちゃんが、こくんとうなずいた。
……あ。
が、がんばるっ!
リコーダーに口をつけたら、でっかい音が「ビーっ!」

次のページに進む
前のページへ戻る

にほんブログ村

児童文学ランキング
スポンサーサイト