《3》 アホっ子ちゃん、がんばる 9 - ナイショの妖精さん1
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《3》 アホっ子ちゃん、がんばる 9

  01, 2018 22:15
2018102201



「ソラシー シラソラー シラソー シレミー」


 ヨウちゃんが音符を読みながら、パンパン手を打つ。

 お父さんの書斎の窓から見えるのは、暮れていく空と夕日にかがやく海。

 あたしは窓ぎわのゆりイスに腰かけて、リコーダーをフーフー。

 重厚な本だなや古い本たちに見守られて。
 オシャレで優雅なひととき。


――だったら、よかったんだけど……。


「綾。リズムおかしい。ソラシーだろ? なんでおまえ、ソーラーシになるんだよ」


「そこ! また調子はずれた。レレミレだけ、すげ~早い」


 はじまって一時間。ずっと、この調子。


「いったい、おまえどうなってんだ? 音符が読めないのかと思ったら、読めてるし。リコーダーの穴に、指押さえられねぇのかと思いきや、ちゃんとできてんのに。なんでぜんぜん別のメロディーみたいになってんだよ?」

「そ、そんなの知らないよ~」


 あたし、涙目。だって、もう十二回も吹いてるんだよ?


「次は口で歌ってみろ」

「う、うん……」


 で。耳できいたとおりに、ドレミで歌ってみたんだけど。


「わかった……おまえ、究極のオンチなんだ……」


 ヨウちゃんはお父さんのつくえの上で、頭を抱えちゃった。


「イヤ、オレだって、音楽なんてそんな得意なほうじゃねぇけど。けど、おまえの場合、音感とか、拍とか、そういうもんがまったく頭にない……。……ヤバイ、どうすればいいのかわかんなくなった……ちょっと上行って考えてくる……」


 ヨウちゃん、重症患者みたいに真っ青な顔で、ふらふら部屋を出て行く。



 なによ、しつれい……。


 あたしは、ゆりイスの上でひざを抱え込んだ。


 でも、そっか……あたしって、音感がないんだ……。


 幼稚園のころから、みんなでお歌を歌うたびに、先生にイヤ~な顔されたわけがやっとわかった。


 でも、そんなのどうしょうもないじゃんっ!

 だって、あたしはこれでまちがいじゃないって思うんだよ? あたしが歌うメロディーで合ってるって思うんだよ?


 リコーダーをもう一度口につけて、そっと息を通してみる。

 ぽーと音が流れだす。

 目をつぶって。自分が奏でる音にだけ、耳を澄ませて。

 次の音。次の音。思うように指を動かしてみる。


 あ……気持ちいい……。


 好きなリズム。好きな音階。さがりたくなったら、さがって。あがりたくなったら、あがって。早くなって、遅くなって。

 くるくる、くるくる。万華鏡みたい。頭の中でイメージが回っていく。

 小花のかんむりが転げていって。かんむりはやがて、大きな一輪のバラにかわる。バラの花びらが散って、くだけて、ハラハラ白い雪になって、大地にふりそそいで――。


 カタ……。


 横で音がした。

 リコーダーから口をはなして、そっちを見たら、ヨウちゃんが二組のティーカップののったトレイを、書斎のつくえの上に置いていた。


 カタカタ、カタカタ……。


 トレイの上のカップが微妙に震えてる。


 ……あれ?





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