《3》 アホっ子ちゃん、がんばる 8 - ナイショの妖精さん1
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《3》 アホっ子ちゃん、がんばる 8

  31, 2018 20:12
2018102201



 高台のてっぺんに、ひときわ白い横板壁の家が見えてくる。

 とんがり屋根に風見鶏。

 あたしは、バラのアーチの後ろから、そっとハーブのお庭をのぞき込んだ。

 小路の奥に、石レンガづくりのポーチが見える。白木のドア。「定休日」ってプレートのかわりに、きょうは「営業中」ってプレートがさがってる。


 う~。入りにく~い。


「やっぱ、帰ろっかな」って、足を引いたとき、ハーブの茂みから、ふわっとシャワーが飛んできた。

 シャワーは中に小さな虹をつくって、じょぼぼぼって、あたしの目の前の道をぬらす。


 あ、あっぶな~!


「げっ! 飛ばしすぎたっ!! 」


 茂みの奥から、つばの広い麦わら帽子をかぶった人が、「すみませ~ん」って出てきた。

 つばがあがって顔が見えたとたん、相手もあたしも、同時に「うわっ 」っと後ずさった。


「よ、ヨウちゃんっ!? 」


「あ……綾~っ!! 」


 ヨウちゃんのほっぺた、真っ赤っ赤。

 で、そのかっこう見て、あたしは「あはははは」って大笑い。

 だってこの人、うちのクラスのボス。女子たちにキャーキャー言われてる、モテモテくん。


 それが……それが……。


 農家のおじさんみたいな、麦わら帽子をかぶって。黒いゴム長ぐつをはいて。軍手にホースを持っちゃって。


 ホースの先から、水がしぴぴぴぴ。


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「なにそのカッコっ! ヨウちゃんって、ガーデニング男子ぃ~っ !?」

「おまえ、勝手に造語するな! こ、これは、熱中症になるからかぶれって、かあさんがっ!」


 あわてて、麦わら帽子を取るヨウちゃん。


「ねぇ、もしかして、ここの葉っぱって、ヨウちゃんが育ててたの?」

「ちげ~よ。こないだから、かあさんに任されてんだよ。フェアリー・ドクターなら、自分が薬草につかうハーブくらい、自分で育てるべきだって。かあさんは、もともと、とうさんのハーブ園を引きついで、店でつかってたんだ」

「ふ~ん」

「お。ワイルドストロベリー、ランナーがだいぶ出てんじゃん。こいつを土にうめてやると、根づいて小株が増えるんだよ」


 ヨウちゃん、小路にしゃがみこんで、なんかしはじめた。

 横の茂みからのびているアホ毛みたいに、ぴろんと長い茎と小葉を、ショベルで土にうめている。


「この猫草みたいなのは、レモングラス。で、となりに小さい丸い葉が密集してるのが、タイム。こっちのシソみたいな形の黄緑の葉は、ペパーミント。ミントは繁殖力が強いから、ほかのハーブが荒らされないように、気をつけねぇといけないんだ」

「くわし~んだね」

「こないだまでは、雑草レベルにしか思わなかったんだけどな。葉っぱの性質がわかるようになると、なかなかかわいくなるもんだな」


 口元をほころばせて、ミントの葉をさわるヨウちゃん。愛犬の頭をなでてるみたい。


「ぷっ。正真正銘、ガーデニング男子~」


「うるさい、綾! で、なに? なんでうちに来たわけ?」


 げ……。


 立ちあがったヨウちゃん。あたしの手のリコーダーを見おろして、ニヤ~。


「こ、これはっ !! ちがう! あたしは、このお店のお客さんに来ただけっ!」


「ふ~ん。ちなみに所持金は?」


 ぎゃっ! お店に入るには、お金がいるんだったっ !!


 ショートパンツのポケットをさぐったら、出てきたのは十円玉二枚。

 ヨウちゃん、これみよがしに「はぁ」って、肩で息をついて。
「かあさん、客~」って、ドアの中に入っていく。


「ま、待って! 二十円じゃ、なんにも……」


 あわてて追いかけたら、ヨウちゃんは、開いたドアを背中でおさえて待っていた。


「入れよ。リコーダーの特訓終わったら、かあさんのハーブティー、ごちそうしてやるから」


 ふんわりやわらかい琥珀色の瞳。



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