《3》 アホっ子ちゃん、がんばる 7 - ナイショの妖精さん1
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《3》 アホっ子ちゃん、がんばる 7

  29, 2018 20:47
2018102201



「真央の片想いの相手は、校長先生なんだよね~。あのおでこのはげあがってるところが、いいんだよね~」

「ハゲ言うな! ダンディーって言うんだよ! おとなの男性サイコーじゃん。まぁ、うちには、有香の趣味のほうが理解できないけどな」

「理解できなくていいですよ。年下の女の子のカワイさが、真央なんかにわかるわけないでしょ」


 ……え? おっさんに女の子?


「……それって、恋なの……?」


「恋だよ~っ!」


 両手を胸のところでにぎりあわせる、有香ちゃんと真央ちゃん。

 窓際でヨウちゃんにキャアキャア言っている女子たちと同じ。目が熱っぽくかがやいてる。


「……そっか。ふたりにも、そういう人がいるんだ……」


「綾はそっち系、さっぱりだからな。うちらも話しづらかったんだよ。でも、どうした? 綾にも好きな人ができたのか?」


「……ううん」


 なんだかふたりとも、女子たちの仲間になっちゃったって感じ。

「夢の世界にひたってたいのもわかるけど。さすがにもう、そんなの通用する歳じゃねぇよな?」って、ヨウちゃんの言葉がよみがえってくる。


 みんな恋をして、現実が大事になって。

 ファンタジーを卒業して、おとなになっていく。



 あたしの背中には、羽がある。


 まだ……たしかに、あるはずなのに――。






 放課後。

 帰りの会が終わると、あたしは真っ先に教室からとびだした。

「放課後、リコーダーの特訓」って、ヨウちゃんに言われたこと、わすれたわけじゃない。

 わすれてないからこそ、「あんたの言うことなんか、きいてやんない!」っていう、意思表示。

 でも、あたしが廊下に出ても、ヨウちゃんはまだ、教室の真ん真ん中の一番後ろの席で、誠や大岩たちとしゃべってた。


 な~んだ。

「特訓」って言ってた本人が、言ったことをわすれちゃったんだ。



 家に帰って、自分の部屋のベッドに寝ころがる。

 ピンク色のベッドカバー。ハート型の赤い目覚まし時計。ウサギや犬のぬいぐるみが、まくらのそばをうめている。

 こうやって、ゴロゴロしながら、窓からのぞくオレンジ色の空を見ていると、妖精を見たことも、フェアリー・ドクターになったことも、まるで遠い国のおとぎ話みたい。


 勉強づくえのほうで、カタンって音がした。

 見たら、勉強つくえにのせてるピンク色のランドセルから、リコーダーが落ちて、回転イスの上に転がっていた。


 先週までは、翻訳ノートが山積みだった勉強づくえ。

 なくなっちゃった今、あたしたちのつながりは、このリコーダーだけ……。



 あたしは起きあがって、笛を拾いあげた。


「ママ、ちょっと、遊びに行ってくる」


 リコーダーをにぎりしめて、一階におりて、玄関のドアを開けて外に出る。


 学校の反対側にある高台に向かって、歩きだした。




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