
「真央の片想いの相手は、校長先生なんだよね~。あのおでこのはげあがってるところが、いいんだよね~」
「ハゲ言うな! ダンディーって言うんだよ! おとなの男性サイコーじゃん。まぁ、うちには、有香の趣味のほうが理解できないけどな」
「理解できなくていいですよ。年下の女の子のカワイさが、真央なんかにわかるわけないでしょ」
……え? おっさんに女の子?
「……それって、恋なの……?」
「恋だよ~っ!」
両手を胸のところでにぎりあわせる、有香ちゃんと真央ちゃん。
窓際でヨウちゃんにキャアキャア言っている女子たちと同じ。目が熱っぽくかがやいてる。
「……そっか。ふたりにも、そういう人がいるんだ……」
「綾はそっち系、さっぱりだからな。うちらも話しづらかったんだよ。でも、どうした? 綾にも好きな人ができたのか?」
「……ううん」
なんだかふたりとも、女子たちの仲間になっちゃったって感じ。
「夢の世界にひたってたいのもわかるけど。さすがにもう、そんなの通用する歳じゃねぇよな?」って、ヨウちゃんの言葉がよみがえってくる。
みんな恋をして、現実が大事になって。
ファンタジーを卒業して、おとなになっていく。
あたしの背中には、羽がある。
まだ……たしかに、あるはずなのに――。
放課後。
帰りの会が終わると、あたしは真っ先に教室からとびだした。
「放課後、リコーダーの特訓」って、ヨウちゃんに言われたこと、わすれたわけじゃない。
わすれてないからこそ、「あんたの言うことなんか、きいてやんない!」っていう、意思表示。
でも、あたしが廊下に出ても、ヨウちゃんはまだ、教室の真ん真ん中の一番後ろの席で、誠や大岩たちとしゃべってた。
な~んだ。
「特訓」って言ってた本人が、言ったことをわすれちゃったんだ。
家に帰って、自分の部屋のベッドに寝ころがる。
ピンク色のベッドカバー。ハート型の赤い目覚まし時計。ウサギや犬のぬいぐるみが、まくらのそばをうめている。
こうやって、ゴロゴロしながら、窓からのぞくオレンジ色の空を見ていると、妖精を見たことも、フェアリー・ドクターになったことも、まるで遠い国のおとぎ話みたい。
勉強づくえのほうで、カタンって音がした。
見たら、勉強つくえにのせてるピンク色のランドセルから、リコーダーが落ちて、回転イスの上に転がっていた。
先週までは、翻訳ノートが山積みだった勉強づくえ。
なくなっちゃった今、あたしたちのつながりは、このリコーダーだけ……。
あたしは起きあがって、笛を拾いあげた。
「ママ、ちょっと、遊びに行ってくる」
リコーダーをにぎりしめて、一階におりて、玄関のドアを開けて外に出る。
学校の反対側にある高台に向かって、歩きだした。
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