
「ほっといてよっ! あたしは妖精なんだから、人間の勉強なんかできないのっ!」
妖精だから、人間の世界だと暮らしにくい。
妖精だから、人間なら一回でできちゃうことも、あたしは五回も六回もやらないとできるようにならないんだっ!
「おまえな……。まだ『自分は妖精』とか、アホなこと言ってんのか? なにが、妖精だ! 努力したくないからって、なんでもこじつけんなっ!」
う~、ズキッズキっ!
やっぱりこんなヤツに、大事な秘密、話さなければよかったっ !!
「綾。おまえ、オレに、『なんにも興味持たない』とか、『物事をちゃんと知ろうとする前にあきらめる』とかって、しかったよな! けど、おまえだって、自分の興味ないことには、努力もしないで逃げ出すじゃねぇか!」
「――はい。そこまで」
後ろからヨウちゃんの頭に、音楽の教科書がふってきた。縦に。ゴンっと。
「か……角……」
ヨウちゃん、頭を抱えてしゃがみこむ。
後ろからあらわれたのは、真央ちゃん。
「中条、なにうちの綾、イビってんだよ?」
「行こ、綾ちゃん。こんな女ったらしの言うことなんか、気にしちゃダメだよ」
有香ちゃんも階段をのぼってきて、あたしの肩を抱く。
ふたりとも、音楽のあとに、先生の手伝いで職員室に行っていたから、ちょうど今、その帰りだったんだ。
まだ頭を抱えてるヨウちゃんが、ちょっとかわいそうだけど。有香ちゃんと真央ちゃんに連れられて、ふり返り、ふり返り、あたしも教室に歩き出す。
「逃げんな、綾っ! 仲間に甘やかされて、ぬくぬくしてんなっ !!」
うわ~ん、なによっ!
かわいそうって思ったこと、取り消しっ !!
「ヨウちゃんこそ、いっつも女子をはべらかしてっ! 自分のプライドのために、女の子といっしょにいるようなヤツなんて、あたし、大っ嫌いっ!! 」
……言っちゃった。
いいよね? 本当のことだもん。
給食を食べ終わって、食器をかたづけている教室で。
今だって、ヨウちゃんの横にリンちゃんが寄っていって、猫みたいに人懐っこい目で、ヨウちゃんを見あげてる。
スパッツをはいてなかったら、お尻が見えちゃうくらいのミニスカート。ツインテールをとめているのは、ピンクのラメがキラキラのシュシュ。
ヨウちゃんもまんざらじゃなさそう。リンちゃんのぶんの空いた食器まで、トレイの上から取り上げて。食器入れのかごに、かたしてあげてる。
なにあれ? 紳士気取り?
あたしは、箸で、ゴーヤをぷすぷす。
いまだに給食を食べているのは、教室の中であたしだけ。
先生が、「アレルギーのない人は、好き嫌いしないでなんでも食べましょう」なんて、きびしいことを言うから、おのこしできなくて、嫌いなゴーヤも食べなきゃなんない。
きっと、妖精の世界にはゴーヤなんかないんだよ!
「倉橋ってさ、勉強できるだろ。やっぱ、塾とか通ってんの?」
食器入れのかごの置かれた、黒板前から、ヨウちゃんの声がきこえてきた。
「や~ん。めずらし~。中条君からわたしに興味持ってくれるなんてぇ。そりゃあ、塾くらいは行ってるよ~? うちはママが、私立中学受験しろって、うるさいから。もう週五。遊べないしやんなっちゃうよ~」
「そうか。がんばってんだな」
ヨウちゃんがニコッとしたから、リンちゃんの目、ハートマークに。
「きゃ~っ!! 中条君がほめてくれた~っ!! 」
あ~もう、はいはい。

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