
体育の恩田おんだ先生が、ピーっとホイッスルを吹いた。
「じゃあ、チームごとにあつまって、ドリブル練習はじめるぞ~」
「綾ちゃん、ファイト!」
あたしの背中をやさしく押す、有香ちゃん。女子で一番高い身長。半そで短パンの体育着からのびる手足が、細くて長くて決まってる。
「じゃあな」って、真央ちゃんも、横っ腹のお肉をゆらしながら、あたしの前からはなれていく。
え~ん。あたしも、ふたりのいるチームがいいよぉ~。
納豆みたいに未練が糸引く足で、ズリズリ歩いていったら、「例のあいつ」はすでにドリブル練習をはじめていた。
嫌味みたいにサラッサラの琥珀色の髪。嫌味みたいに琥珀色の真剣な目で、バウンドする手元のボールを見つめてる。
琥珀色の目があがって、あたしを見た。
「和泉、パス!」
バスケットボールが、なだらかな弧を描いて、あたしの手元にとんでくる。
ヤダっ! パスなんかしないでよっ!
あたしが、きゅっと肩をちぢこめてボールを避けたら、「おまえな~」って低い声。
「マジメに取れよ。ほら、拾ってこい。今度はおまえのドリブル練習だ」
あ~もう、うるっさい。
先生のホイッスルが鳴ったから、しょうがなくあたしもドリブル練習。
あたしの横を、同じチームの窪くぼや青森あおもりさんが、三角コーンをぬって走ってく。
あたしも、まりつきみたいにてんてんてん。ボールをついて、足を一歩。二歩……。
三歩目を出したら、出した右のつま先にボールがあたって、ポンポンと前へ転げた。
あ~あ。
「和泉、ボールばっかり見てんじゃなくて、走る先を見るんだ。で、ボールといっしょに走る」
なんか、琥珀色の髪の人が、エラそうなこと言ってるけど、ききたくない。
「おい、和泉!」
無視。
「和泉っ!!」
やっぱり、無視。
「綾っ!」
あたし、ぎょっとして顔をあげた。
あたしの向かいでヨウちゃんが、腰にボールを抱えて、あたしをにらんでる。
「少しは人の話をきけ! スポーツなんてコツなんだよ」
「う、うるさいな、ほっといてよっ !! ヨウちゃんなんかに、運動オンチの気持ちがわかるわけないでしょっ!! 」
ザワッと、まわりの子たちがあたしを見た。
「……え? ヨウちゃん……?」
青森さんが立ちどまって、ぽかんとあたしとヨウちゃんを見比べてる。
……あ。下の名前で呼んじゃった。
「とにかく、綾はもう一度、スタート地点から、ドリブル練習だ。ほら、さっさと行け。練習時間がなくなるぞ! 次の試合は、大岩おおいわのチームとあたるんだからな! あっちには倉橋くらはしもいるし、強豪なんだから」
倉橋っていうのは、リンちゃんの苗字。
そうなんだよね……。
リンちゃんは女子力が高くて、スポーツもできる。頭もとってもイイってうわさ。
ヨウちゃんでも、リンちゃんの実力は認めてるんだ……。
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