
ふわ……。
右肩に、ホタルみたいな銀色の光を感じた。
え……?
自分の肩を見て、ドキンと心臓が鳴る。
妖精の男の子。十歳くらいの赤いくるくる髪の子。
あたしの肩に座ってる。
反対側の肩も、ふわっと銀色に光った。
ホタルブクロの帽子をかぶった女の子が、あたしの肩に両手をのせて、いっしょにブラックベリーの山を見つめてる。
チカチカ、チカチカ。
銀色の光の粒はきっと、妖精の羽のりんぷん。
雪のようにふりそそいで、あたしの背中にもアゲハチョウの羽の輪郭をつくる――。
「い、和泉……?」
「……え?」
中条をふり返ったら、妖精になった妄想が、頭の中でポンってはじけちゃった。
もう……せっかく仲間になれた気分だったのに~……。
ふっと、お花の香りがした。
生ゴミのにおいが、太陽が地面をこがすにおいにかわってる。
ブラックベリーの葉っぱの山が、虹色に光りだした。
オーロラって、きっとこんな感じ。ビジュアルマッピングしたみたいに、葉っぱの表面で、虹色の帯がゆれている。
葉っぱの下が、ごそっと動いた。
ごそ、ごそ、ごそ……。
葉っぱの下から、ツツジの雌しべみたいな腕が出てくる。
すぐにもう一本、数センチの小さな腕がのぞいた。
腕が葉っぱをおしのける。ぽこっと、小さな金色の頭がのぞく。
ふわふわパーマの長い髪。小花のかんむりがよく似合ってる。左右にわけた前髪の下には、透きとおるような白い顔。
青い寄り目で、つんとおとなびた顔立ち。
中学生くらいの妖精の少女。
「な、治った……」
少女は白いロングドレスで立ちあがると、背中をふり返った。背中で閉じていた銀色の羽が、ヨットの帆みたいに張られていく。
チカチカ、銀色のりんぷんが、少女の細い体にふりそそぐ。
「チチチチチチチ」
「キンキンキンっ!」
穴の中がにぎやかになった。
あっちでもこっちでも、スプーンとフォークを打ちつけたような金属音が鳴りひびく。
あたしの肩にとまっていた妖精たちが飛びあがって、少女の妖精のまわりをくるりくるりと舞いだした。
「治った! ねぇ、治ったよ、中条っ !!」
あたしも立ちあがって、まだ穴の入り口に立ってる中条の両手を、両手でぎゅっとにぎった。
「ね、見たっ? 見たでしょっ !! あたしたちでも、妖精を治せたよ! あたしたち、本当にフェアリー・ドクターになったんだぁっ!! 」
「あ……ああ……」
なんか中条の反応、うすい。まばたきばっかり、くり返している。
まさか、まだ、妖精が怖くてかたまってるのっ !?
ワッと、あたしたちの両肩を、銀色の帯が横ぎった。
「きゃっ!」
一瞬だけ目をつぶって。あわてて目を開けて、帯の行ったほうに走る。
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