
……なにこれ……?
こないだ来たときと、ちがう。
生ゴミがくさったみたいな、鼻につくにおい。
「和泉っ! 勝手にかあさんのマネして呼ぶなっ!」
あたしについて穴に足を踏み入れて、中条も「うっ」と鼻をおさえた。
「……どうしたんだ、ここ……?」
目が慣れてきて、闇の中に、部屋の壁が見えてくる。
チカチカまたたいているのは、銀色の妖精の羽。
わ……多い……。
まるで、満天の星空。それか遊園地のパレードのイルミネーション。
あのお花畑にいた妖精の子が、どこにいるのかわかんない。
だって、羽のはえた手のひらサイズの子どもたちが、ひとり、ふたり、三人、四人……。
十一、十ニ、十三……。
中央の花の中に横たわる妖精の少女をとりかこんでる。
赤いくるくるの髪で、体に緑の葉っぱを巻きつけた男の子。
ホタルブクロのお花を帽子にしてかぶった、白いお花のドレスの女の子。
年齢は、どの子もあたしと同じか、幼いくらい。
妖精の顔つきって、みんな似てる。お肌真っ白。目は寄り目。鼻はつんとしていて、くちびるも小さくとがっていて。
どの子も、肩を落としてうつむいてる。
やけどを負った少女の肌はもう、ほとんど緑色だった。小さな口で息をしているけど、うめく体力ものこってないみたい。
「このにおいって……あの子から……?」
「い、和泉! 葉っぱ」
「う、うんっ!」
あたしが枝から葉っぱをむしりとると、中条は、その上にペットボトルの湧き水をかけた。
葉っぱから、しゅうっと霧がたちのぼっていく。
虹色の霧。
「この葉を!」
中条、葉っぱを手に取って、妖精のほうに歩みかけたけど、また、かたまっちゃった。
……え? なに?
やっぱり、怖いの?
「貸して。あたしがやる」
あたしは、中条の手から葉っぱを取りあげて、妖精たちの輪へ歩いていった。
手のひらサイズの妖精たちが、つっつっとトンボの羽で飛びあがり、あたしのために、道を開ける。
寝ている少女の妖精の前に来ると、あたしはしゃがみこんだ。
ドキドキ、ドキドキ。胸が鳴る。
暗い穴の中なのに妖精の銀色の光で、女の子の顔がよく見える。
薄目を開けてる青い瞳。こんなに緑色のほっぺになっちゃってるけど、この子、とっても美人。もう、ハリウッドの女優さん並みの。
あたしは指先でブラックベリーの葉をつまんで、そっと女の子の体にかぶせた。
一枚、二枚、三枚、四枚……。
胸からお腹に、水にひたった葉を九枚かけたら、今度はお腹から足に、一枚、二枚、三枚、四枚……。
今度は顔に、一枚、二枚、三枚……。
みるみるうちに、少女の姿は、葉の下に隠れてく。
妖精の輪の真ん中には、こんもり積もったブラックベリーの葉っぱ。
こんなんで、だいじょうぶ……?
チラッと輪の外をあおいだら、中条がこくんとうなずいた。
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