《2》 妖精のお医者さん 16 - ナイショの妖精さん1
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《2》 妖精のお医者さん 16

  17, 2018 22:25
20108092801



 湧き水……?

 それって、けっこうなレア物じゃない?


 だってここ、田舎だけど、水が湧いているような深い山じゃないよ。「浅山」って名前がついてるくらいだもん。 

 なのに中条、ジーンズの後ろポケットに両手をつっこんで、自信たっぷりに歩いてく。

 荷物持ちみたいに、ノートの入ったナップサックと、ブラックベリーの枝の束をかかえて。小走りでついていったら、植物園の横の駐車場。

 中条ってば、駐車場のすみに置いてある、自動販売機に行っちゃって。ちゃっかり小銭を入れてるし。


「え~? ジュース飲んで休んでる場合~?」

「……ジュースじゃねぇよ」


 カコンと落ちてきたペットボトルを、自動販売機から出して。中条がラベルをこちらに向けた。


「富士山のおいしい湧き水」。


 湧き水。


「……これって、アリ?」

「アリじゃね? 天然水って書いてあるし」


 な~んか、なっとくいかないんだけど。


 山道をのぼってくだって、またのぼって。

 あの赤紫色のお花畑の中に、やっとレンガ造りの砲弾倉庫が見えてくる。

 あたし、おでこも背中も、わきの下まで汗びっしょり。やっぱり、山登りってキツイ。

 中条を見ると、あたしのピンクのナップサックを片肩にかけて。ペットボトルに、ブラックベリーの枝束を抱えて。

 ようするに、けっきょくぜんぶ持ってもらっちゃってるんだけど。ちっとも息があがってない。


 ホントに、この体力差はなんなのっ !?


 へろへろと追いかけると、長い足は、一番奥のアーチの手前で立ちどまっていた。


 あれ……?

 なんか中途半端なとこでとまってない? あと一メートル進めば、中見えるのに……。


「……おい。先に入れ」

「……へ?」

「いいからっ!! 」


 ふり向いた中条。顔真っ青。歯、ガチガチ。


 あ、わすれてた。

 この人、ビビリのヘタレだったっ!


 ケラケラ笑うあたしに、「笑うな!」って怒鳴るけど、あごが震えてて、威厳ない。


「……はいはい。ヨウちゃん!」


 ポンッと、中条の肩に手を置いて、あたしは、先にアーチの中に。



 ムッとこもった濃いにおいが、体中を取り巻いた。





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