
湧き水……?
それって、けっこうなレア物じゃない?
だってここ、田舎だけど、水が湧いているような深い山じゃないよ。「浅山」って名前がついてるくらいだもん。
なのに中条、ジーンズの後ろポケットに両手をつっこんで、自信たっぷりに歩いてく。
荷物持ちみたいに、ノートの入ったナップサックと、ブラックベリーの枝の束をかかえて。小走りでついていったら、植物園の横の駐車場。
中条ってば、駐車場のすみに置いてある、自動販売機に行っちゃって。ちゃっかり小銭を入れてるし。
「え~? ジュース飲んで休んでる場合~?」
「……ジュースじゃねぇよ」
カコンと落ちてきたペットボトルを、自動販売機から出して。中条がラベルをこちらに向けた。
「富士山のおいしい湧き水」。
湧き水。
「……これって、アリ?」
「アリじゃね? 天然水って書いてあるし」
な~んか、なっとくいかないんだけど。
山道をのぼってくだって、またのぼって。
あの赤紫色のお花畑の中に、やっとレンガ造りの砲弾倉庫が見えてくる。
あたし、おでこも背中も、わきの下まで汗びっしょり。やっぱり、山登りってキツイ。
中条を見ると、あたしのピンクのナップサックを片肩にかけて。ペットボトルに、ブラックベリーの枝束を抱えて。
ようするに、けっきょくぜんぶ持ってもらっちゃってるんだけど。ちっとも息があがってない。
ホントに、この体力差はなんなのっ !?
へろへろと追いかけると、長い足は、一番奥のアーチの手前で立ちどまっていた。
あれ……?
なんか中途半端なとこでとまってない? あと一メートル進めば、中見えるのに……。
「……おい。先に入れ」
「……へ?」
「いいからっ!! 」
ふり向いた中条。顔真っ青。歯、ガチガチ。
あ、わすれてた。
この人、ビビリのヘタレだったっ!
ケラケラ笑うあたしに、「笑うな!」って怒鳴るけど、あごが震えてて、威厳ない。
「……はいはい。ヨウちゃん!」
ポンッと、中条の肩に手を置いて、あたしは、先にアーチの中に。
ムッとこもった濃いにおいが、体中を取り巻いた。
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