《2》 妖精のお医者さん 15 - ナイショの妖精さん1
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《2》 妖精のお医者さん 15

  15, 2018 21:41
20108092801




「え~? 赤くただれるならわかるけど、緑色だよ? やけどって感じじゃなくない?」

「待て、読むから。……妖精の肌は弱く、夏の強いひざしを浴びすぎただけでも、やけどをする。肌に緑色の斑点ができ、やがてそれが全身に広がり、死にいたる。……治すには、ブラックベリーの葉を九枚。湧き水に冷やして、やけどした患部にあてる」

「ブラックベリーっ? って、よく、ブルーベリーといっしょにケーキにのってる、あの木イチゴっ!? 」

「よし、園内をさがすぞっ!」



 園内のマップをたよりに、迷路みたいな花壇を右に曲がって、左に曲がって。
 あたしひとりだけ、ぐるっと一周して、同じ場所にもどってきちゃって。

 中条にあきれられたりしながら……。


 T字路のなってる道のつきあたりに、深緑色の葉っぱの低木が見えてきた。

 細い幹にはプレートがさがっていて、「ブラックベリー」って書かれてる。


「あれぇ? カワイイつぶつぶの実が、どこにもついてない~」

「たんに、実がなる季節じゃねぇだけだろ。この葉を九枚つかうんだな?」

「でも、あの子、あっちこっちやけどしてたから、九枚じゃ足りないよ」

「へぇ、マトモなこと言うの、めずらしいじゃねぇか。じゃあ、とりあえず多めにもらってくか」


 だから、一言多いんだってば!


 中条が葉っぱに手をのばしたら、花壇の影から歩いてくるおじいさんが見えた。

 スノーマンみたいに丸い体。水色の作業着姿で、頭はつるつる。耳の横にだけ灰色の髪がのこってる。


 うわっ! 植物園の管理人さんっ!


「まずいよ、中条っ! 勝手に園内の葉っぱむしるのがバレちゃう!」



 あわあわしてる間に、おじいさんは近づいてくる。


「こんにちは。きょうも暑いねぇ」


 目を細めて話しかけてくる。


「う、こんにちは。あ、あついですねぇ~」


 葉っぱをつかんでる中条の前に、あたし立ちはだかって、わたわた隠して。でも中条、デカイから、あたしの背中じゃ隠しきれない。


 もう、こうなったら、直接お願いしちゃえっ!


「あ、あ、あのっ! このブラックベリーの葉っぱ、ちょっとくださいっ !!」

「うわっ !? バカ正直!」


 中条はあわてたけど、おじいさんは、灰色のひげのはえた口で、にっこりしてくれた。


「へぇ? リースでもつくるのかい? いいよ、どうせ剪定しなきゃならなかったところさ」


 腰のベルトにぶらさげたマイ園芸バサミをとりだして、木の枝ごとパチン。


「ブラックベリーの葉よ、妖精のやけどを治したまえ」


 後ろでボソッと、中条がつぶやいた。

「ほぇ?」って、ふり返ったら、中条、口にこぶしを置いて、せきばらいしてる。


「……なんだよ? 植物をつむときに、なんにつかうか、植物に言ってきかせろって、ノートに書いてあったろ?」


 そうだったっけ? 中条ってホント、しっかり覚えてるんだよね。


「はい。これくらいでいいかな?」


 おじいさんはあたしに、葉のいっぱいついてるブラックベリーの枝の束をわたして、もどっていった。

 大きな丸いお腹に短い足。歩いていく後ろ姿は、白雪姫に出てくる小人さんみたい。


「ありがとうございます!」


 ふたりならんで、ぺっこり頭をさげて。

 アホ毛をゆらして頭をあげたら、横で中条がニッと笑った。


「あと、必要なのは、湧き水だな」




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