
「え~? 赤くただれるならわかるけど、緑色だよ? やけどって感じじゃなくない?」
「待て、読むから。……妖精の肌は弱く、夏の強いひざしを浴びすぎただけでも、やけどをする。肌に緑色の斑点ができ、やがてそれが全身に広がり、死にいたる。……治すには、ブラックベリーの葉を九枚。湧き水に冷やして、やけどした患部にあてる」
「ブラックベリーっ? って、よく、ブルーベリーといっしょにケーキにのってる、あの木イチゴっ!? 」
「よし、園内をさがすぞっ!」
園内のマップをたよりに、迷路みたいな花壇を右に曲がって、左に曲がって。
あたしひとりだけ、ぐるっと一周して、同じ場所にもどってきちゃって。
中条にあきれられたりしながら……。
T字路のなってる道のつきあたりに、深緑色の葉っぱの低木が見えてきた。
細い幹にはプレートがさがっていて、「ブラックベリー」って書かれてる。
「あれぇ? カワイイつぶつぶの実が、どこにもついてない~」
「たんに、実がなる季節じゃねぇだけだろ。この葉を九枚つかうんだな?」
「でも、あの子、あっちこっちやけどしてたから、九枚じゃ足りないよ」
「へぇ、マトモなこと言うの、めずらしいじゃねぇか。じゃあ、とりあえず多めにもらってくか」
だから、一言多いんだってば!
中条が葉っぱに手をのばしたら、花壇の影から歩いてくるおじいさんが見えた。
スノーマンみたいに丸い体。水色の作業着姿で、頭はつるつる。耳の横にだけ灰色の髪がのこってる。
うわっ! 植物園の管理人さんっ!
「まずいよ、中条っ! 勝手に園内の葉っぱむしるのがバレちゃう!」
あわあわしてる間に、おじいさんは近づいてくる。
「こんにちは。きょうも暑いねぇ」
目を細めて話しかけてくる。
「う、こんにちは。あ、あついですねぇ~」
葉っぱをつかんでる中条の前に、あたし立ちはだかって、わたわた隠して。でも中条、デカイから、あたしの背中じゃ隠しきれない。
もう、こうなったら、直接お願いしちゃえっ!
「あ、あ、あのっ! このブラックベリーの葉っぱ、ちょっとくださいっ !!」
「うわっ !? バカ正直!」
中条はあわてたけど、おじいさんは、灰色のひげのはえた口で、にっこりしてくれた。
「へぇ? リースでもつくるのかい? いいよ、どうせ剪定しなきゃならなかったところさ」
腰のベルトにぶらさげたマイ園芸バサミをとりだして、木の枝ごとパチン。
「ブラックベリーの葉よ、妖精のやけどを治したまえ」
後ろでボソッと、中条がつぶやいた。
「ほぇ?」って、ふり返ったら、中条、口にこぶしを置いて、せきばらいしてる。
「……なんだよ? 植物をつむときに、なんにつかうか、植物に言ってきかせろって、ノートに書いてあったろ?」
そうだったっけ? 中条ってホント、しっかり覚えてるんだよね。
「はい。これくらいでいいかな?」
おじいさんはあたしに、葉のいっぱいついてるブラックベリーの枝の束をわたして、もどっていった。
大きな丸いお腹に短い足。歩いていく後ろ姿は、白雪姫に出てくる小人さんみたい。
「ありがとうございます!」
ふたりならんで、ぺっこり頭をさげて。
アホ毛をゆらして頭をあげたら、横で中条がニッと笑った。
「あと、必要なのは、湧き水だな」
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