
「それで、和泉は、あの妖精の病気はなんだと思う?」
スタスタと浅山の登山道を歩きながら、中条がたずねてくる。
「……え? なん……なんだろ……?」
体中にコケみたいな斑点ができてたから、カビちゃったとか?
「……おまえ、それも考えないで、どうやって病気を治してやる気だったんだよ?」
「だ、だってっ! あたしはとにかくまず、洗礼を成功させなきゃって、いっぱいっぱいで! フェアリー・ドクターになったら、ピピピッてテレパシーが来て、治し方がわかるようになると、思ったんだもん!」
「……さすが、アホっ子だな」
肩でため息をつきながらも、中条、歩くのをやめない。
「ねぇ、どこに行くの? こっち、妖精たちのいる砲弾倉庫とは逆方向だけど」
ホント、この人のスピードについてくの、キツイんだけど。
「ここだよ」
やっと中条が立ちどまったと思ったら、あたしたちの前に花壇が広がっていた。
コスモスがピンクに白に赤紫に咲きほこっている。ほかにもマリーゴールドとか、サルビアとか。あと、名前の知らない花がいっぱい。
花壇の奥には、梅や柿やみかんの木も見える。
あ……浅山の植物園。
入園無料で、温室まであって、けっこう豪華。なのに、日曜でさえ歩いてるお客さんが見あたらないってところが、田舎町のさみしさだと思う。
「妖精を治したり、妖精から受けた傷を治すには、薬草をつかうらしい。ここならたいていのものが、そろうだろ。ほら、さっさと、かあさんの翻訳ノート見せてみろ? 持ってきたんだろ?」
「う、うん……」
あたしが、背負ってたキルト地のナップサックをおろして、ノートを出すと、中条は取りあげて、パラパラページをめくっていった。
これ、中条のお父さんが書いた『妖精の薬草辞典』の翻訳ノート。
横からのぞきこんだら、半ページごとに植物の名前が書いてあって、かんたんな絵で、薬草の作り方がのっている。
「効能は、切り傷、頭痛、ビタミン剤。風を起こす法。の、呪い返し……?」
薬局に売ってるような薬だけじゃなくて、ゲームに出てきそうな薬まであるんだけど。
「これって、妖精に対してだけじゃなくて、妖精に関わった人間を治すのにもつかえるんだったよね。ってことはだよ? もし、妖精にケガさせられちゃったり、へんな魔法をかけられちゃったら、人間がこの薬をつかうってこと?」
だって、原料はハーブだったり、くだものの木の葉っぱだったり。この植物園でそろうようなものばっかりなのに。さすがに現実ばなれしすぎてない?
「『妖精から受けた傷は、フェアリー・ドクターのつくった薬でなけらば治らない』とも、書いてあるな。まぁ、しょせん、迷信のたぐいだろ。とにかく今は、目うつりしてねぇで、あの妖精にききそうな薬草を見つけろよ」
う~ん……やっぱ、カビカビ病かな?
中条がペラっとページをめくったら、妖精の絵が描いてあった。絵の妖精の体のあちこちに斑点が描いてある。
「あっ! こ、これっ!」
「全身に緑色の斑点。これだな。――え……? やけど……?」
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