
土曜の夜にパパとママにつれられて、家に帰って。さんざん怒られて。
日曜日は、ずっと自分の部屋で泣いていた。
なのにまだ、目に涙があふれてくる。歯をくいしばっても、こらえられない。
ちゃんとうつむいてなきゃ。月曜の昼間っから、学校で泣いてることが、みんなにバレちゃう。
「ねぇねぇ、和泉さん、だいじょうぶ?」
音楽室に向かうとちゅう。廊下を歩いていたら、女子たちに呼びとめられた。
「……え?」
胸に音楽の教科書とペンケースを抱きしめて、ふり返る。
あたしにつられて、先を歩いていた真央ちゃんと有香ちゃんもふり返った。
見たら、同じクラスの青森さんと、山下さんと、西宮さん。
三人がのぞきこんでいるのは、あたしのおでこの絆創膏。
「きいたよ。その傷、中条君につけられたんだって?」
「えっ!? なんでっ!? だれがそんなこと言ってるのっ!? 」
「みんな言ってるよ。で、中条君の絆創膏は、和泉さんがケガさせたんでしょ?」
「えええ~っ!? ち、ちがうっ!」
「いいよ、隠さなくて。わたしたちは和泉さんの味方だから。中条君、カッコイイから好きだったけど、もうファンやめることにしたんだ」
「ね~。顔がよくっても、女の子を傷つける男子なんて、サイアク~」
「ね~。和泉さんも早めに別れて、正解だったよ~」
「ちょ、ちょっと待ってよ! だから、ちがうんだってばっ!! 」
でも、ぜんぜんきいてくれない。山下さんと西宮さんは、お互い、勝手にうなずきあってる。
「でも、すごいね。あの中条君と取っ組み合いのケンカしたの? 別れたのって、やっぱりケンカが原因?」
「わたしは、中条君が浮気して、それが和泉さんにバレたってきいたけど」
「あ。浮気のことで、ケンカになったんだ?」
って、ちょ……ちょっとぉ~。
横で、青森さんが眉をひそめた。
「リンもそうとう、ショックだったみたい。あの子、なんだかんだ言って、中条君と和泉さんの仲、ちゃんと認めてたみたいなんだよね。それが急に、別れるとか。中条君が手をあげたとか。なんか、リン、しょげちゃって、わたしにまで口をきいてくれないの」
「……あのさ。三人とも悪いけど、少しは察してくれない?」
真央ちゃんがあたしの右肩に、後ろから手を置いた。
「リンがしょげてるとか、そんなの、悪いけど、どうでもいいんだよ。綾にくらべたら、話にならないレベルなんだから」
「一番傷ついてるのは、綾ちゃんだよ。今は、そっとしておいてくれる?」
有香ちゃんの手も、あたしの左肩に後ろからそえられる。
う……。真央ちゃん、有香ちゃん……。
「ご……ごめんね……和泉さん」
青森さんが自分の口を手で隠した。
「わ、わたしたち、先に行くね!」
青森さんについて、山下さんと、西宮さんもパタパタと廊下を走り出す。
「あっ! ちょっと、待ってっ! だから、そのうわさ、ちがうんだってばっ!! ヨウちゃんは、あたしに手をあげたりなんて、してないからっ!! 」
さけんだのに、三人の背中はふり返りもしないで、階段の手すりの陰に消えていく。
「ど……どうしよう~……」
「だれか、今朝、うちらが話してたのきいてたな」
「まぁ、うわさには、尾ひれがつくものだしね。……って、綾ちゃん……」
有香ちゃんに肩をたたかれて、顔をあげると、ヨウちゃんが廊下を歩いてきていた。
肩に音楽の教科書をかついで。ひとりで。左手はジーンズのポケットにつっこんでる。
ヨウちゃんは無表情のままで、スタスタ大またで近づいてくる。
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