《7》 出口のないトンネル2 - ナイショの妖精さん5
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《7》 出口のないトンネル2

  14, 2023 17:01
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 土曜の夜にパパとママにつれられて、家に帰って。さんざん怒られて。

 日曜日は、ずっと自分の部屋で泣いていた。


 なのにまだ、目に涙があふれてくる。歯をくいしばっても、こらえられない。


 ちゃんとうつむいてなきゃ。月曜の昼間っから、学校で泣いてることが、みんなにバレちゃう。



「ねぇねぇ、和泉さん、だいじょうぶ?」


 音楽室に向かうとちゅう。廊下を歩いていたら、女子たちに呼びとめられた。


「……え?」


 胸に音楽の教科書とペンケースを抱きしめて、ふり返る。

 あたしにつられて、先を歩いていた真央ちゃんと有香ちゃんもふり返った。


 見たら、同じクラスの青森さんと、山下さんと、西宮さん。

 三人がのぞきこんでいるのは、あたしのおでこの絆創膏。


「きいたよ。その傷、中条君につけられたんだって?」


「えっ!?  なんでっ!?  だれがそんなこと言ってるのっ!? 」


「みんな言ってるよ。で、中条君の絆創膏は、和泉さんがケガさせたんでしょ?」


「えええ~っ!?  ち、ちがうっ!」


「いいよ、隠さなくて。わたしたちは和泉さんの味方だから。中条君、カッコイイから好きだったけど、もうファンやめることにしたんだ」

「ね~。顔がよくっても、女の子を傷つける男子なんて、サイアク~」

「ね~。和泉さんも早めに別れて、正解だったよ~」


「ちょ、ちょっと待ってよ! だから、ちがうんだってばっ!! 」


 でも、ぜんぜんきいてくれない。山下さんと西宮さんは、お互い、勝手にうなずきあってる。


「でも、すごいね。あの中条君と取っ組み合いのケンカしたの? 別れたのって、やっぱりケンカが原因?」

「わたしは、中条君が浮気して、それが和泉さんにバレたってきいたけど」

「あ。浮気のことで、ケンカになったんだ?」


 って、ちょ……ちょっとぉ~。


 横で、青森さんが眉をひそめた。


「リンもそうとう、ショックだったみたい。あの子、なんだかんだ言って、中条君と和泉さんの仲、ちゃんと認めてたみたいなんだよね。それが急に、別れるとか。中条君が手をあげたとか。なんか、リン、しょげちゃって、わたしにまで口をきいてくれないの」


「……あのさ。三人とも悪いけど、少しは察してくれない?」


 真央ちゃんがあたしの右肩に、後ろから手を置いた。


「リンがしょげてるとか、そんなの、悪いけど、どうでもいいんだよ。綾にくらべたら、話にならないレベルなんだから」


「一番傷ついてるのは、綾ちゃんだよ。今は、そっとしておいてくれる?」


 有香ちゃんの手も、あたしの左肩に後ろからそえられる。


 う……。真央ちゃん、有香ちゃん……。


「ご……ごめんね……和泉さん」


 青森さんが自分の口を手で隠した。


「わ、わたしたち、先に行くね!」


 青森さんについて、山下さんと、西宮さんもパタパタと廊下を走り出す。


「あっ! ちょっと、待ってっ! だから、そのうわさ、ちがうんだってばっ!!  ヨウちゃんは、あたしに手をあげたりなんて、してないからっ!! 」


 さけんだのに、三人の背中はふり返りもしないで、階段の手すりの陰に消えていく。


「ど……どうしよう~……」


「だれか、今朝、うちらが話してたのきいてたな」

「まぁ、うわさには、尾ひれがつくものだしね。……って、綾ちゃん……」


 有香ちゃんに肩をたたかれて、顔をあげると、ヨウちゃんが廊下を歩いてきていた。

 肩に音楽の教科書をかついで。ひとりで。左手はジーンズのポケットにつっこんでる。


 ヨウちゃんは無表情のままで、スタスタ大またで近づいてくる。




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