《6》 ヤドリギの下で6 - ナイショの妖精さん5
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《6》 ヤドリギの下で6

  26, 2023 12:47
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 なに、その……目……。


 あったかくて、やわらかくて。でも、ゆがんでて、今にも涙があふれだしそうな。


「綾……大事にしろよ。羽」


「……うん」


「オレのかわり……なんだぞ……」


 声が震えだす。ヨウちゃんは歯を食いしばって、またうつむいた。



「うん……」


 ズキズキと胸が痛い。

 肩の傷より、手や足の傷より、胸のほうがずっと痛い。

 あたしの目から涙があふれて、ほおを伝っていく。


 そのほおに、ヨウちゃんは土のついた手のひらをそえた。


 ……え?


 ヨウちゃんのくちびるが近づいてきて、あたしのくちびるにそっとふれる。


 しょっぱい。涙の味がする。

 嗚咽がこみあげてくる。


 あたしは目を閉じて、自分からヨウちゃんのくちびるにふれた。

 しゃくりあげるあたしのくちびるに、ヨウちゃんがまたくちびるをつけてくれる。


 しょっぱい。

 しょっぱい……。


 あたしのほっぺたは土まみれで。涙が土をドロドロにしめらせていく。

 土のにおいがする。

 夜のにおいがする。


「ヨウちゃん……」


 目を開けると、あたしのほっぺたはヨウちゃんの両手に包み込まれてた。

 眉をひそめ、琥珀色の瞳をゆがませ、でも、口元には、ほほえみをうかべて。あたしをのぞきこむ、ヨウちゃんのほおにも涙が伝っている。


 幾筋も幾筋も。


 顔についた土を、涙の川が押し流していく。


「……綾。きょうが終わったら、オレらは他人だ。話しもしない。目も合わせない。一番遠い存在になるぞ」



 あたしたちの頭の上に、チカチカと、銀色の光の粒がふってきた。

 ヨウちゃんといっしょに顔をあげると、丸いヤドリギの上で、妖精たちが踊っていた。


 いつものくるくる激しいダンスとはちがう。

 ふたりずつ手を取り合い、ほおを寄せて、ゆっくり左右にゆれている。


 スローで静かなチークダンス。



公開用 5巻 ヤドリギの下で_2




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