《6》 ヤドリギの下で5

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 ふわっと、ヨウちゃんのまわりを金色の光が取り巻いた。


 金色のりんぷんっ !?


 ヨウちゃんのほおを、琥珀色の髪を、金色の粒が包んでいく。

 あたたかな金色の粒。

 まるで生きているかのように。ふわふわとヨウちゃんのまわりをただよって、一粒、一粒、空にのぼって消えていく。


「……とうさんっ!」


 ヨウちゃんが肩を震わせた。


「とうさん……ごめん……。勝手に墓場からよみがえらせたりして、ごめんっ! ハグの入れ物にして、ごめんっ! もう、二度とこんな罰当たりなことしない……。ぜったいに……しない……」



 ……ヨウちゃん。


 お父さんもきっと、わかってるよ……。

 フェアリー・ドクターとして成長した自分の息子を、きっと、誇りに思ってる……。



 ヨウちゃんが何かを拾いあげて立ちあがったとき、地面からお父さんの体は消えていた。


「この森をつかさどりし、ネミの王よ。我に力をお与えくださったことを、感謝します。その力を消して、立ち去りたまえ」


 ヨウちゃんは、お墓の前に置いてあった石の台をくずした。

 リンゴとコッペパンを紙袋にもどして、ふたつの石も、地面に返す。最後に台を裏返しにして、木のかげに置いている。


「……これで……おしまい?」


「……ああ」


 ヨウちゃんが手のひらを開いて、持っていたものをあたしに見せた。

 ブーメランのような細長い金色の葉のついた枝。


「これなに……?」


「そこのオークについてるヤドリギの枝だよ。これに魔力が宿って、とうさんの体をつくっていたんだ。――綾! あとは鏡だ」


「う、うんっ!」


 ヨウちゃんが木の幹に立てかけられている鏡を手に取ると、鏡の表面から、ドロッとした黒いモヤがあふれだしてきた。


「う、うわっ!? 」


 とっさに、ヨウちゃんが鏡から手をはなす。


 ガシャンっ!


 木の根にぶちあたって、鏡が割れる。

 破片が足元にちらばる。


「う、うめちゃえっ!」


 あたしは横に掘られた深い穴に、割れた破片を落とした。

 モグラみたいに両手で土をかいて、どんどん穴をうめていく。

 向かいから、ヨウちゃんも手で土を落としだした。


 なんだか、すごいアナログ……。


 本当にこんなんで、ハグは土から出てこられなくなるのかな……?



「綾……おまえ、さっき羽……」


 気づいたら、向かいでヨウちゃんの目が、あたしの顔をうかがっていた。


 ……そっか。ヨウちゃんもハグといっしょで、あたしが羽を切ったと思ってるんだ。


「あるよ。ちゃんと」


 あたしは肩甲骨の力を抜いて、チョウチョの羽をふわっと広げてみせた。


 ヨウちゃんが息を飲む。

 藍色の空気にチカチカとまたたく、銀色のりんぷん。

 そのりんぷんで形づくられた、アゲハチョウの大きな羽。


「一芝居うったの。ハグに、あたしの羽がなくなったって思わせるんなら、今だって思って。杖で、羽を切る動作をしたときに、いっしょに羽をしまっただけ」


「……はぁ~。なら、オレには先に知らせとけよ。マジでビビった……」


「だって。思いついたの、今なんだもん」

「行きあたりばったりかよ? さすがはアホっ子」

「なによ~。うまくいったんだから、結果オーライじゃん~」


 ぶうってほおをふくらませたけど、ヨウちゃんはもう、鏡をうめる作業にもどっていた。


「……正直言うと、おまえが羽を切った瞬間、『もったいない』って思った。『切れ』って言ったのは、オレの方なのにな。……キレイだよ……その姿……」


 ドキンと心臓が鳴った。

 あたしの羽のりんぷんに照らされて、ヨウちゃんがふんわり笑ってる。




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