
ふわっと、ヨウちゃんのまわりを金色の光が取り巻いた。
金色のりんぷんっ !?
ヨウちゃんのほおを、琥珀色の髪を、金色の粒が包んでいく。
あたたかな金色の粒。
まるで生きているかのように。ふわふわとヨウちゃんのまわりをただよって、一粒、一粒、空にのぼって消えていく。
「……とうさんっ!」
ヨウちゃんが肩を震わせた。
「とうさん……ごめん……。勝手に墓場からよみがえらせたりして、ごめんっ! ハグの入れ物にして、ごめんっ! もう、二度とこんな罰当たりなことしない……。ぜったいに……しない……」
……ヨウちゃん。
お父さんもきっと、わかってるよ……。
フェアリー・ドクターとして成長した自分の息子を、きっと、誇りに思ってる……。
ヨウちゃんが何かを拾いあげて立ちあがったとき、地面からお父さんの体は消えていた。
「この森をつかさどりし、ネミの王よ。我に力をお与えくださったことを、感謝します。その力を消して、立ち去りたまえ」
ヨウちゃんは、お墓の前に置いてあった石の台をくずした。
リンゴとコッペパンを紙袋にもどして、ふたつの石も、地面に返す。最後に台を裏返しにして、木のかげに置いている。
「……これで……おしまい?」
「……ああ」
ヨウちゃんが手のひらを開いて、持っていたものをあたしに見せた。
ブーメランのような細長い金色の葉のついた枝。
「これなに……?」
「そこのオークについてるヤドリギの枝だよ。これに魔力が宿って、とうさんの体をつくっていたんだ。――綾! あとは鏡だ」
「う、うんっ!」
ヨウちゃんが木の幹に立てかけられている鏡を手に取ると、鏡の表面から、ドロッとした黒いモヤがあふれだしてきた。
「う、うわっ!? 」
とっさに、ヨウちゃんが鏡から手をはなす。
ガシャンっ!
木の根にぶちあたって、鏡が割れる。
破片が足元にちらばる。
「う、うめちゃえっ!」
あたしは横に掘られた深い穴に、割れた破片を落とした。
モグラみたいに両手で土をかいて、どんどん穴をうめていく。
向かいから、ヨウちゃんも手で土を落としだした。
なんだか、すごいアナログ……。
本当にこんなんで、ハグは土から出てこられなくなるのかな……?
「綾……おまえ、さっき羽……」
気づいたら、向かいでヨウちゃんの目が、あたしの顔をうかがっていた。
……そっか。ヨウちゃんもハグといっしょで、あたしが羽を切ったと思ってるんだ。
「あるよ。ちゃんと」
あたしは肩甲骨の力を抜いて、チョウチョの羽をふわっと広げてみせた。
ヨウちゃんが息を飲む。
藍色の空気にチカチカとまたたく、銀色のりんぷん。
そのりんぷんで形づくられた、アゲハチョウの大きな羽。
「一芝居うったの。ハグに、あたしの羽がなくなったって思わせるんなら、今だって思って。杖で、羽を切る動作をしたときに、いっしょに羽をしまっただけ」
「……はぁ~。なら、オレには先に知らせとけよ。マジでビビった……」
「だって。思いついたの、今なんだもん」
「行きあたりばったりかよ? さすがはアホっ子」
「なによ~。うまくいったんだから、結果オーライじゃん~」
ぶうってほおをふくらませたけど、ヨウちゃんはもう、鏡をうめる作業にもどっていた。
「……正直言うと、おまえが羽を切った瞬間、『もったいない』って思った。『切れ』って言ったのは、オレの方なのにな。……キレイだよ……その姿……」
ドキンと心臓が鳴った。
あたしの羽のりんぷんに照らされて、ヨウちゃんがふんわり笑ってる。
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