《6》 ヤドリギの下で4

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 暗い木々が開けた。

 星空と丘が目の前に広がる。

 墓石たちが黒い影をつくってたたずんでいた。

 その中央で、巨木が両腕を天にのばしている。


「……外人墓地……」



「綾っ!」


 人影が走ってきた。

 ききなれた声に安心して、あたしはその場にへたりこんだ。


「……ヨウちゃん」


「だ、だいじょうぶかっ!?  あいつに何されたっ!?  肩? 肩が痛いのかっ!? 」


「ヨウちゃん、あたしのことはいいから。早く儀式……」


 あたしは、妖精たちの飛んでいく方をゆびさした。

 妖精たちは巨木のもとにあつまっている。ハグの体も巨木に引き寄せられていく。

 妖精たちが杖をおろした。木の根のそばの地面に、杖をつきたてる。


 あれはきっと……妖精たちの墓標……。


「わたしの杖を返せっ!」


 ハグが杖に手をのばす。


「と、取られちゃうっ!」


 あたしがさけんだのと同時に、横からヨウちゃんがとびだした。

 見る間にハグにかけより、ハグの体にタックルして、押し倒す。


「っ!」


 ふたり同時に、地面の上に転がった。

 ヨウちゃんが、ハグのえりもとをねじふせ、馬乗りになる。


 すぐ左横はお墓。

 ヨウちゃんのお父さんのお墓。


「ははは。いいぞ、ヨージ。早く、わたしをおまえの父親から追い出せ」


 ヨウちゃんの腕の下で、ハグが歯ぐきをむきだした。


「そのあと、わたしはすぐに、あの小娘の体に入る。あの小娘の妖精の体は、わたしをいともたやすく、受け入れてくれるからな」


 ヨウちゃんが奥歯をかみしめた。ハグをねじふせる腕から力が抜けていく。


「そんなこと、あたしさせないっ!」


 あたしもふらりと立ちあがった。

 痛い肩をおさえながら、巨木の下へ歩いていく。

 両手に力を込めて、妖精の墓標の杖を、ぐいと引き抜いた。


「あ、綾っ!? 」


 あたしは銀色のチョウチョの羽を背中に出して、ふたりの前で仁王立ちした。


「また、あんたなんかに入られるぐらいなら、こんな羽、切ってやるっ!! 」


 杖を思い切りふりかぶって、背中の羽の付け根に向かって、ふりおろす。


 目を見開くヨウちゃんとハグ。


 羽は、パッと夜闇に散って消える。



 墓地が静まり返った。


 オークの巨木が、ヤドリギを風にゆらしている。




「……な……なんてことを……」


 ハグのあごがガクガクと鳴った。

 あたしは、地面にまた、杖をつきさした。


「ヨウちゃん、早くっ!」


 ヨウちゃんが、ハッと身じろぐ。


「ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダーよ。この者の中に棲みし魂を、この者から分離せよっ!」


 とたん。


 外人墓地が、真昼のように光った。

 お墓のまわりに、虹色の円柱の壁が、そびえ立つ。


 その内側にいるヨウちゃんとハグ。

 あたしや妖精たちは円柱の外。


「うあぁあああああっ!! 」


 ハグの雄たけびが、夜闇をつんざいた。

 虹色の壁は、闇に吸われて消えていく。


 かわりに、木の幹に立てかけられている丸鏡が虹色に光った。


「ハグが……鏡の中にもどった……」


 ヨウちゃんはハアハアと息をついて、自分が馬乗りになっている人物を見おろしている。

 ヨウちゃんの下で、おとなの男性は、あおむけに横たわったまま、まぶたを閉じていた。


 腕も胸も動かない。持ち主の消えた、ただの入れ物――。


「……とうさん……」


 地面に落ちた懐中電灯が、ヨウちゃんの横顔を照らしだす。

 涙が一粒、ヨウちゃんの目からこぼれて、お父さんのほおに落ちる。



 ヨウちゃんは、ぎゅっと目を閉じた。


「この森をつかさどりし、ネミの王よ。その力の宿りし金枝を開放せよ。ここに現れし者の姿を、あるべき場所へ返したまえ」



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