
頭の上で、チカチカと銀色の光が舞った。
あたしのりんぷん?
ちがう。
あたし今、羽を出してない。
じゃあ、だれ……?
銀色のりんぷんを撒きながらやってくるのは、トンボの形の羽をつけた手のひらサイズの小さな子たちだった。
十人ほど一列になって、小さな体でするりするりと、木の幹をかわしていく。
「チチ……ヒメ……」
みんな、どうしたんだろう? 顔をうつむけて、いつものにぎやかなおしゃべりもきこえてこない。
静かな、静かな。妖精たちの列……。
「アヤちゃん。見つけた」
ハッとしてふり返ると、ハグがクマザサの茂み越しに、あたしを見おろしていた。
ひっと首をすくめる。
ふりあげられる杖。その先で、トンボの羽が銀色に光る。
「チチチチチチ!」
「キンキンキンキンキンっ!」
とたんに雑木林の中に、金を打ちつけるみたいな音が広がった。
妖精の子たちの声。
口々に妖精語をさけびながら、こちらに向かって飛んでくる。
「な、なんだっ!? うるさい、やめろっ!! な、なにするっ!? 」
ハグが杖をふりまわす。
その杖に、妖精がひとりしがみついた。ふわふわロングの金髪。白いロングドレス。中学生くらいのおねえさんの姿をした――。
「ヒメっ!」
バレリーナみたいな服を着た女の子も、杖をつかんだ。
「チチっ!」
ワッと妖精たちが、一本の杖にたかっていく。
たくさんのトンボの羽にまみれる杖。あたりを銀色の光で明るくするりんぷん。
「チチチチチチ……」
ヒメの目に浮かぶ涙に気づいた。
ヒメだけじゃない。チチも泣いてる。ほかの妖精の子たちも、みんな泣いてる。
「キンキンキン! キンキンキン!」
夜の雑木林に妖精たちの声がこだまする。まるで、空でまたたく星と星がぶつかりあって鳴っているみたいな。
「……杖に、妖精の羽がついてるから……」
妖精たちにだって、心はある。
自分たちの仲間が、ハグのせいで消滅したってこと、妖精たちは知っている。
妖精たちの手が、ハグの手から杖を取りあげた。高く飛んで、ハグが手をのばしても、杖に手は届かない。
「き、きさまらっ!」
十人の妖精たちは、杖をうめつくして飛び出した。
「ど、どこに行くのっ!? 」
あたしの問いに、チチもヒメも答えない。
頭の上一メートルくらいのところを、杖を手にして飛んでいく。
ずるっと、ハグの足が動いた。
茶色い背広を着た足が、見えない糸で引っ張られるみたいに、ずるずると妖精たちの列につられていく。
「な、なんだっ!? やめろっ! 体が勝手にっ!! 」
手をばたつかせ、身をよじるハグ。
「もしかして、これ……ゴールデンロッドの薬の力っ!? 」
ハグと杖は一心同体だって言ってた。ってことは、磁石だったらN極とS極。
ハグの手に杖がもどってくるかわりに、杖がハグからはなれたら、ハグの体だって、杖のところに引き寄せられていく。
あたしはしめった地面に手をついて、クマザサの茂みから立ちあがった。
コートは泥だらけ。腕も足も肩も痛いところが多すぎて、どこが痛いのかよくわからない。
「待って!」
ふらつく足を引きずって、痛い左肩をおさえながら、あたしも妖精たちを追いかけた。
木の枝のすき間からのぞくのは、満天の星空。その星と同じ色のりんぷんを撒いて、列をなしていく妖精たち。
この長い列は、お葬式なのかもしれない。
ハグに羽を切られて亡くなった、妖精たちの。

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