《6》 ヤドリギの下で2

5_6.jpg


 背中越しにハグが近づいてくる。釣りざおのように肩の上にかついでいるのは、妖精の羽のついた杖。


「……なん……で? 杖は、崖に落ちていったはずなのに……」


「だからね、この杖には、ゴールデンロッドのパウダーがふりかけられているんだよ。何度この杖を失くしても、どんな入れ物に入っていても、わたしの意識があるかぎり、この杖はわたしの手元にもどってくるだろう。いまや、この杖とわたしは一心同体。

フェアリー・ドクターの薬とは、なかなか便利なものだね。すべて割ってしまって、惜しいことをした。また、あの子に頼み込んで、つくってもらわなきゃなぁ」


「よ、ヨウちゃんが、あんたの頼みなんかきくわけないじゃん!」


「そうかぁ。それなら、しかたがない。こんなおじさんの体はやめて、きみの体を借りようかね。きみの姿なら、ヨージだって、ちょっとムリなお願いでもきいてくれるだろう?」


「っ!」


 ガッと、あたしの左肩を、杖の先がついた。

 強烈な痛みに、一瞬息がとまる。


「ふふふ。まるで標本箱にピンで打たれた、アゲハチョウだね。さぁ、アヤちゃん! わたしのために、その体をゆずっておくれ」


「い……イヤ……」


 肩が痛い。

 杖に力を込めて地面に押し付けられていて、動けない。



 ヨウちゃん!


 あたしは身をよじった。


 ぜったいに、ヨウちゃんのところにもどるんだからっ!


「え~いっ!! 」


 おおいかぶさってきた相手のみぞおちを、思い切り足で蹴りあげる。


「ぐぇえ!」


 ハグがうめいた拍子に、あたしは飛び起きて、森の中にかけこんだ。


「待てぇ! クソガキぃっ!! 」


 雑木林の木の葉は、ほとんどが落ちていて、枝だけになっている。

 チョウチョの羽を広げられないほど、木々のすき間はせまい。


「待てぇえええ……」


 地を這うようにせまってくる、しわがれた老婆のうめき声。


 怖い! 怖いっ! 怖いっ !!


 涙がこぼれても、ぬぐってるひまはない。

 あたりは木の幹ばっかり。


 どっち? どっちっ!?

 どっちを行けば、外人墓地につけるのっ!?


 あたしって、いつもこう。アホっ子だから、自分の決めた道がまちがってることにも気づかないで、どんどん先に進んでいっちゃう。

 だけど、もし、まちがいだったら?

 あたしはずっと、こんな森をさまよい続けるの?


 だって、先に希望が見えない。

 これで、ハグから逃げきれたって。

 ヨウちゃんが儀式を成功させたって。

 ハグが鏡の中に閉じ込められて、土にうめられたって。


 あたしはもう……ヨウちゃんと手をつなげない……。



 木の根っこに、つま先が引っかかった。


「きゃんっ!」


 あたしは、鼻からしめった土の上に、ダイブした。

 枯葉を体につけながら、ミノムシみたいにごろごろまわって、すべり台みたいに、斜面を転げる。

 すぐにザクザクと枯葉を踏む音が、近づいてくる。


 追いつかれちゃう。


 もう……体中痛くて立ちあがれない……。





次のページに進む

前のページへ戻る



コミカライズ版もあります!!


【漫画シーモア】綾ちゃんはナイショの妖精さん


【漫画kindle】綾ちゃんはナイショの妖精さん


【漫画動画1巻1話】



にほんブログ村


児童文学ランキング