《6》 ヤドリギの下で1 - ナイショの妖精さん5
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《6》 ヤドリギの下で1

  18, 2022 21:43
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 ハグをさがして、あたしの足は勝手に砲弾倉庫跡に向かっていた。


 きっと、いつもヨウちゃんと行っている場所だから。

 はじめてふたりで妖精を見たのも、この場所だったし。

 告白されたのも、このヒースの茂みだった。



 あたしは、銀色のチョウチョの羽をゆっくりと閉じて、ヒースのごわごわの葉に足をうずめて、おりたった。

 黒い影をつくる葉を、夜風がゆらしてる。


 ヒースの茂みの真ん中に、黒い人影が立っていた。


 筋肉質で背が高い男の人。茂みをかきわけて、あたしのほうへ歩いてくる。

 茶色い背広を着て、胸元にはループタイ。中折れ帽子の下からのぞく琥珀色の髪。



――だいじょうぶ。きみの背中には羽がある――



 胸にしみわたる低い声がきこえた気がした。


――その羽を、きみ自身が信じられなくなってしまったら、きみの羽は抜けてしまうだろう。羽があることをわすれないで。そうすれば、いつかきっと、きみは空を飛んでいけるから――


 ヨウちゃんのお父さんが、琥珀色の瞳でほほえんで、あたしの手のひらにコロンと白い妖精のタマゴを置く――。




 ヒースの上をわたる夜風が、冷たくあたしのほおを刺した。


 お父さんは、もうここにはいない。

 白い目を見開き、口元をにたりとゆがめて、あたしのもとへ歩いてくるあいつは……ハグ。


「アヤちゃん! 迎えに来てくれたんだねっ !!」


 英語なまりのある低い声で、ハグは両手を広げた。


「さあ、わたしの魂をその体に迎え入れてくれ! ヨージと何をたくらんでも、ムダだからね。きみが墓地へわたしを導き、ヨージがわたしを、この体の外に追いやったところで、わたしはすぐにきみの体に入るだろう。きみはもう、逃れることのできない、小さなか弱い虫ケラなのだよ」



 ……バレてる。

 アホっ子のあたしが立てた計画なんて、あっさりと見抜かれちゃってる。


 だけど、あたしはアホっ子だから、計画どおりに動くことしかできない。


 あたしは羽を広げて、飛び立った。

 ハグが手をのばす前に身をかわして、ヒースの茂みから、たった一メートル上空をふわりふわりと飛んでいく。

 ハグに捕まえられないほど、高くじゃなく。

 ハグに追いつかれないほど、速くじゃなく。


「おお! アヤちゃん! なんて、すばしっこい子なんだっ! やっぱり、その羽はすばらしい 」


 ハグは、にやけた口のままで追ってくる。


「きゃっ!」


 登山道へ出ようとした太ももを、杖でたたかれた。


「い、イタ……」


 左の太ももをおさえて、あたしは茂みの中に落っこちた。




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