《5》 あたしたちの決断14 - ナイショの妖精さん5
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《5》 あたしたちの決断14

  04, 2022 22:24
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 最後の一歩を踏みしめたとき、墓のまわりに虹色の光の輪が描かれた。

 はじめと終わりの点が合わさる。とたん輪は、円柱の壁となって、暗がりにそびえたつ。

 虹色の光が足元からあがってきて、頭上にのぼって空にたちのぼり、闇に散って、パンと消える。



 鳴くフクロウと、静まり返る墓石たち。


「……成功……」


 オレはひたいの汗をぬぐった。

 今、できるのはここまで。あとは、とうさんの体が必要だ。


「……綾」


 空を見あげる。今晩は、すごい星の数だ。妖精が撒き散らす銀色のりんぷんのように、星が藍色の空を明るくしている。


「……あいつ、ちゃんとハグを誘導できてるのか?」


 とたん、不安で息がつけなくなった。


 だって、あの綾だぞ?

 オレもいないところで、たったひとりで。

 うっかりドジや、ミスをしたら、ハグは目の色かえて、襲いかかる。


 綾……。


 足が勝手にふらふらと歩き出す。

 でも、さがすあてがなくて、墓を一周しただけでもどってきてしまう。

 それに、綾がハグを誘導してきたとき、肝心のオレがここにいなければ、あいつの努力は無になる。


「……くそ……」


 なにもできない……。


 逆の立場になるまで、気づかなかった。

 待っていなければならないことが、こんなにも歯がゆいことを。

 胸がざわついて、とてもじっとしていられない。

 しかたがないから、鏡をうめるための穴をつくることにした。


 鵤さんのスコップを借りて、オークの木の根元を掘っていく。

 土はしめっていて硬い。シャリシャリと霜柱がくだける音がする。


「……まるで墓穴だな……」


 つぶやいた自分の声が、自分の胸にはね返ってきた。


 ……だれの……?


 ハッとした。

 ほおを生ぬるいものが伝っていた。

 とまらない。涙がどんどんあふれてくる。べとつく涙が、次々にあごを伝って、スコップをにぎる手の甲をボツボツとぬらしていく。


「……っく」


 嗚咽をあげたとたんに、体中の力が抜けた。

 スコップをほうりだして、オークの木の幹にすがりつく。


「……あや……」


 あいつ……オレと別れることを、平然と認めた……。


「……なんでだよっ!!  どうして……そんなかんたんに、割り切れるんだよ……っ!」


 こっちはこんな、いまだ、頭ん中ぐちゃぐちゃで。

 ぜんぜん、整理なんかついてねぇのにっ!


「綾っ! おまえ、オレとずっといたいって言ったじゃねぇか! わざわざこんなとこまで、オレのこと追っかけてきて……こっちが怒ってんのに、言うことちっとも、きかねぇで。ヨウちゃんが……ヨウちゃんが、心配でしかたなかったとか……そんな……そんなカワイイこと……言って……た……くせに……」


 こぶしで幹をたたいても、木は答えない。

 まるで、子どもを包み込む寡黙な父親のように、ただ枝をゆらしている。



 オレは油断していたのかもしれない。


 綾ならぜったいに、オレと別れたくないって、泣きつくと思っていたのかもしれない。

 オレといっしょにいたいから、羽を切るって。

 そんなふうに、言ってくれるはずだって。


 そんな、ずうずうしいこと、オレはエラそうに信じ込んでいたのかっ!?



「……あや……」




 消える。



「ヨウちゃん」とさしだされる綾の手が。



   ★




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