
最後の一歩を踏みしめたとき、墓のまわりに虹色の光の輪が描かれた。
はじめと終わりの点が合わさる。とたん輪は、円柱の壁となって、暗がりにそびえたつ。
虹色の光が足元からあがってきて、頭上にのぼって空にたちのぼり、闇に散って、パンと消える。
鳴くフクロウと、静まり返る墓石たち。
「……成功……」
オレはひたいの汗をぬぐった。
今、できるのはここまで。あとは、とうさんの体が必要だ。
「……綾」
空を見あげる。今晩は、すごい星の数だ。妖精が撒き散らす銀色のりんぷんのように、星が藍色の空を明るくしている。
「……あいつ、ちゃんとハグを誘導できてるのか?」
とたん、不安で息がつけなくなった。
だって、あの綾だぞ?
オレもいないところで、たったひとりで。
うっかりドジや、ミスをしたら、ハグは目の色かえて、襲いかかる。
綾……。
足が勝手にふらふらと歩き出す。
でも、さがすあてがなくて、墓を一周しただけでもどってきてしまう。
それに、綾がハグを誘導してきたとき、肝心のオレがここにいなければ、あいつの努力は無になる。
「……くそ……」
なにもできない……。
逆の立場になるまで、気づかなかった。
待っていなければならないことが、こんなにも歯がゆいことを。
胸がざわついて、とてもじっとしていられない。
しかたがないから、鏡をうめるための穴をつくることにした。
鵤さんのスコップを借りて、オークの木の根元を掘っていく。
土はしめっていて硬い。シャリシャリと霜柱がくだける音がする。
「……まるで墓穴だな……」
つぶやいた自分の声が、自分の胸にはね返ってきた。
……だれの……?
ハッとした。
ほおを生ぬるいものが伝っていた。
とまらない。涙がどんどんあふれてくる。べとつく涙が、次々にあごを伝って、スコップをにぎる手の甲をボツボツとぬらしていく。
「……っく」
嗚咽をあげたとたんに、体中の力が抜けた。
スコップをほうりだして、オークの木の幹にすがりつく。
「……あや……」
あいつ……オレと別れることを、平然と認めた……。
「……なんでだよっ!! どうして……そんなかんたんに、割り切れるんだよ……っ!」
こっちはこんな、いまだ、頭ん中ぐちゃぐちゃで。
ぜんぜん、整理なんかついてねぇのにっ!
「綾っ! おまえ、オレとずっといたいって言ったじゃねぇか! わざわざこんなとこまで、オレのこと追っかけてきて……こっちが怒ってんのに、言うことちっとも、きかねぇで。ヨウちゃんが……ヨウちゃんが、心配でしかたなかったとか……そんな……そんなカワイイこと……言って……た……くせに……」
こぶしで幹をたたいても、木は答えない。
まるで、子どもを包み込む寡黙な父親のように、ただ枝をゆらしている。
オレは油断していたのかもしれない。
綾ならぜったいに、オレと別れたくないって、泣きつくと思っていたのかもしれない。
オレといっしょにいたいから、羽を切るって。
そんなふうに、言ってくれるはずだって。
そんな、ずうずうしいこと、オレはエラそうに信じ込んでいたのかっ!?
「……あや……」
消える。
「ヨウちゃん」とさしだされる綾の手が。
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