《5》 あたしたちの決断12 - ナイショの妖精さん5
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《5》 あたしたちの決断12

  13, 2022 21:19
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 お互いに好きな気持ちが同じなら、ずっとずっと、つきあっていけるって思ってた。

 好きなのに、別れるとか、そんなことありえないって、思ってた。




 あたしはヨウちゃんの両わきを抱えあげて、星空の中を飛んでいる。

 ハグが今、この浅山のどこにいるのかわからない。

 道を永遠に歩いているのかもしれないし、木の陰にひそんでいるのかもしれない。



 登山道を八合目くらいのぼったところに、黒い鉄の柵が見えてきた。


「……ここだ。外人墓地」


 ヨウちゃんがつぶやく。

 あたしは葉の落ちた木の下にゆっくりと舞いおりた。

 突き出た先が、槍みたいにとがった鉄の柵。奥に墓石がならんでる。

 日本の墓石とは、形がちょっとちがう。平べったくて、かまぼこ型やホームベース型をしたものが多い。


 ヨウちゃんは地面に足をつけると、無言で墓石の間を歩き出した。

 日本の墓地よりもお墓がひしめきあってないからか、おどろおどろしい感じはそんなにしない。

 だから、ビビりのヨウちゃんでも、怖がらずに歩いて行けるのかもしれない。


 石板には、十字架の刻まれたものも多い。英語みたいな横文字が彫り込まれてる。

 ここに葬られているのは、大昔に、花田の港についた船で亡くなった外国人の船員さんや、日本に住んでいた外人さんたちなんだって。校外活動のときに、先生から習った。


 墓地の中央の、大きな木が近づいてきた。広がった枝は、空に両手をふりあげてさけぶ人みたい。

 その葉のない枝の上の方に、丸い塊がいくつもからみついている。

 鳥の巣かな? 巨大なマリモみたい。


 ヨウちゃんは、その木のそばのお墓まで来ると、立ちどまった。

 ホームベース型をした石板。てっぺんに十字架が彫り込まれてる。

 石板の「Rhys Williams」って文字を、ヨウちゃんは手のひらでたどった。


「ここ……とうさんの墓……」


 もっと、ハグに荒らされているのかと思ったけど。お墓は掘り返された感じもなくて、地面にはコケまではえている。


「……本当にここから、お父さんがよみがえったの……?」


「ぜんぶ、これでやったからな……」


 ヨウちゃんが、自分の首からぶらさげている小ビンにふれた。

 ザワザワと大木の枝がゆれた。枝についた巣のような塊もゆれる。


 風が出てきてる。


「じゃあ、ヨウちゃんは先にここで、儀式の準備をしててね」


 あたしは自分のマフラーにあごをうずめて、ヨウちゃんから一歩、二歩と後ろにさがった。


「え? ……綾は?」


「あたしは、ハグをさがしだして、ここまで誘導する」


「は?」


 ヨウちゃんの声が裏返る。


「ちょ、ちょっと、待て! 何考えてんだ、おまえっ!!  それがどんなに危ないことか、わかってんだろっ!? 」


「わかってるよ。でもあたしは、きょうが終わったら、もう、この羽を隠して生きなきゃならないんだから。だったら、これがあたしの最後の晴れ舞台だもん。ね、ヨウちゃん。ちゃんと見とどけて」


「あ、綾ぁっ!」


 ヨウちゃんの声が、浅山の空にこだまする。

 あたしはアゲハチョウの羽をはばたかせて、夜空に飛びあがった。





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