
お互いに好きな気持ちが同じなら、ずっとずっと、つきあっていけるって思ってた。
好きなのに、別れるとか、そんなことありえないって、思ってた。
あたしはヨウちゃんの両わきを抱えあげて、星空の中を飛んでいる。
ハグが今、この浅山のどこにいるのかわからない。
道を永遠に歩いているのかもしれないし、木の陰にひそんでいるのかもしれない。
登山道を八合目くらいのぼったところに、黒い鉄の柵が見えてきた。
「……ここだ。外人墓地」
ヨウちゃんがつぶやく。
あたしは葉の落ちた木の下にゆっくりと舞いおりた。
突き出た先が、槍みたいにとがった鉄の柵。奥に墓石がならんでる。
日本の墓石とは、形がちょっとちがう。平べったくて、かまぼこ型やホームベース型をしたものが多い。
ヨウちゃんは地面に足をつけると、無言で墓石の間を歩き出した。
日本の墓地よりもお墓がひしめきあってないからか、おどろおどろしい感じはそんなにしない。
だから、ビビりのヨウちゃんでも、怖がらずに歩いて行けるのかもしれない。
石板には、十字架の刻まれたものも多い。英語みたいな横文字が彫り込まれてる。
ここに葬られているのは、大昔に、花田の港についた船で亡くなった外国人の船員さんや、日本に住んでいた外人さんたちなんだって。校外活動のときに、先生から習った。
墓地の中央の、大きな木が近づいてきた。広がった枝は、空に両手をふりあげてさけぶ人みたい。
その葉のない枝の上の方に、丸い塊がいくつもからみついている。
鳥の巣かな? 巨大なマリモみたい。
ヨウちゃんは、その木のそばのお墓まで来ると、立ちどまった。
ホームベース型をした石板。てっぺんに十字架が彫り込まれてる。
石板の「Rhys Williams」って文字を、ヨウちゃんは手のひらでたどった。
「ここ……とうさんの墓……」
もっと、ハグに荒らされているのかと思ったけど。お墓は掘り返された感じもなくて、地面にはコケまではえている。
「……本当にここから、お父さんがよみがえったの……?」
「ぜんぶ、これでやったからな……」
ヨウちゃんが、自分の首からぶらさげている小ビンにふれた。
ザワザワと大木の枝がゆれた。枝についた巣のような塊もゆれる。
風が出てきてる。
「じゃあ、ヨウちゃんは先にここで、儀式の準備をしててね」
あたしは自分のマフラーにあごをうずめて、ヨウちゃんから一歩、二歩と後ろにさがった。
「え? ……綾は?」
「あたしは、ハグをさがしだして、ここまで誘導する」
「は?」
ヨウちゃんの声が裏返る。
「ちょ、ちょっと、待て! 何考えてんだ、おまえっ!! それがどんなに危ないことか、わかってんだろっ!? 」
「わかってるよ。でもあたしは、きょうが終わったら、もう、この羽を隠して生きなきゃならないんだから。だったら、これがあたしの最後の晴れ舞台だもん。ね、ヨウちゃん。ちゃんと見とどけて」
「あ、綾ぁっ!」
ヨウちゃんの声が、浅山の空にこだまする。
あたしはアゲハチョウの羽をはばたかせて、夜空に飛びあがった。
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