
「そんなに大切なのかっ!? 妖精でいることがっ!! 」
ヨウちゃんの涙声。胃をキリキリ痛くする。
「ヨウちゃんには……わかんないよ。取り柄がいっぱいある人には……」
言い訳みたいなあたしの声が、冷たい空気をゆらしてる。
「あたしには、羽しかないって、前にも話したでしょ? つかわなくても、羽があることを自分が知ってるだけで、自信を持てるって。だから、羽だけは、ぜったいに失くしたくないの……」
そんなことじゃない。
羽を失くしたくない、本当の理由は。
だって……ヨウちゃん、覚悟しちゃってる。
今晩がんばって、ハグをお父さんの体から切りはなしたところで、いずれまた、ハグが出てきて、ヨウちゃんを襲うって。
でも……そしたら、ヨウちゃんは、どうするの?
飛ぶこともできないふつうの人間の体で、ハグに立ち向かっていくつもりなの?
それで、何かあったら……。そのとき、フェアリー・ドクターの薬を持っていなかったら。持っていても、薬が効かなかったら……。
治せるのは、あたしのりんぷんの力だけなのに……。
「は、羽なんかなくたって、オレがおまえのそばにいてやるって。オレが綾に、ちゃんと自信持たせてやるから……」
「だから。ヨウちゃんのそばにいたら、羽があっても、なくても、ハグに襲われるのは同じなんだって」
あたしはにっこり笑って、ヨウちゃんの顔を見返した。
あ……これ……ウソっこの笑顔。
ヨウちゃん、前に、あたしはいつも本気で笑ってくれるって、リンちゃんに自慢してたのにな。
ヨウちゃんのくちびるが震えてる。見る間に、琥珀色の瞳から、涙があふれた。涙は色白のほおを、幾筋も伝っていく。
「……い……いやだ……」
ヨウちゃんがしゃくりあげた。
「綾……オレ……イヤだ……。綾が好きだ……」
あたしは両手をのばして、ヨウちゃんのほっぺたにふれた。
冷たい。冬の夜の気温が、ほっぺたを氷みたいに冷たくしている。
だけど……やわらかい……。
「綾……お願いだよ……。お願いだから……そばにいて……」
ヨウちゃん……。
あたしのほおにも涙の筋が伝っていく。
あたしも、ヨウちゃんが大好き……。
何度、桜の季節が来ても、ずっとずっとそばにいたかった……。
「――ね? もう、やめよ」
あたしは、ぐいっとモッズコートの胸を押し出した。
「今はそんなことより、ハグをお父さんから切りはなす作戦、立て直さなきゃ」
「……綾……」
琥珀色の瞳が、うつろになる。
静かな無。望みを失った人間の、もう、もがいても意味がないと悟ったときの、無。
ごめんね、ヨウちゃん。
あたしも覚悟するよ。
ヨウちゃんは、あたしにとってすごくすごく大事な人だから。
別れても、これから先も、陰でずっと、ヨウちゃんを見守っていく。
そして、ヨウちゃんが危なくなったら、すぐに出てきて、この羽のりんぷんで、ヨウちゃんを守るから――。
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