
「……ああ。たしかに今は、綾が妖精だったおかげで助かった。ありがたいと思ってる。けど、でもやっぱり、妖精の体は危険すぎる。
鵤さんが言ったとおり、ハグはまだ、おまえをねらっていた。今晩、なんとか、とうさんの体からハグを切りはなせたとしても、あいつの本当の仕留め方がわからないかぎり、ハグはまた、きっと出てきて、おまえの体をねらう……」
「だから……ハグにねらわれない、魅力のない体になれって……?」
「……そう」
「で、でも……そんなの……わかんないじゃん。鏡を割って、土にうめれば、ハグだって出てこれなくなるって、ヨウちゃんのお母さんだって……」
「かあさんは、仮定の話しかしてねぇよ。鵤さんだって……生きていたとして、とうさんにだって、わからないと思う。この先に起きることは、もう、だれにもわからないんだ。
綾、また、あいつに体をのっとられてもいいのか? それにおまえの羽のりんぷん。万能薬かもしれないけど、つかい切ったら、おまえは消滅するんだぞ。あいつは……妖精を消滅させることくらい、へいきでやる……」
そうだ……。
あたしは、自分の肩を自分で抱いた。
ハグは、妖精たちを、自分の杖をつくるためだけに、消滅させたんだ。
「妖精が消滅する方法はいくつかある。けど、羽を切る方法だけが、人間の綾の体に負担をかけない、唯一の方法だ。それは、前にも話したよな?
羽を切れば、妖精の綾は消えてしまう。けど、人間の綾は、無傷でちゃんと生きられる。だったらもう、それでいいじゃねぇか。それで、ハグにねらわれなくなるんなら」
「……そう……だけど……」
そんな……「こっちがダメなら、あっち」みたいな単純な理由で、あたしは羽を失っちゃうの……?
「でも……あたしに羽がなくなっても……ヨウちゃんのそばにいたら、それだけで、ハグにねらわれるんじゃない?」
あたしの声が闇にしずんでいった。
「……なんだよ、それ……?」
懐中電灯に照らされたヨウちゃんの眉間が、ぎゅっとちぢこまる。
「だって、そうじゃん。たしかに、羽を切っちゃえば、今のあたしほど、あいつにとって魅力はなくなると思うけど。でも、あいつは、ヨウちゃんを痛めつけるために、へいきでまわりをつかうようなヤツでしょ。
正直言って、ヨウちゃんのそばにいるかぎり、あたしがハグにねらわれることは、かわらないと思う」
……あれ?
あたし、何言っちゃってんだろ……?
胃がどんどん冷たくなってくる。
あたしはただ、羽を切られたくないってだけなのに。
これじゃ、まるで……。
「じゃあ……別れるか?」
あたしは顔をあげて、ヨウちゃんの目を見た。
琥珀色の瞳。硬く、強く、正面からあたしを見返してくる。
「オレとは……無関係な人間になるか? だったら、たしかにもう、綾がねらわれることはなくなるな。けど……羽は切ったってことにするんだぞ。で、この先ずっと、羽を隠して生きていく。羽があったら、オレのそばにいようがいまいが、おまえはハグに、ねらわれるんだから」
「……わかってる。これが終わったら……あたし、羽を切ったってことにする」
「……綾っ! おまえ、本当に意味がわかって言ってんのかっ!? オレは、おまえと『別れる』って言ってんだぞっ! おまえ、オレのそばにいるより、今後はずっと、つかえない羽を持ち続けるほうを、取る気かよっ!?」
「……うん」
あたしは、かみしめるみたいにうなずいた。
一度うつむいちゃったら、もう顔をあげるのが怖い。
ヨウちゃんの顔を見られない。
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