
「お願いっ!! あたし、ヨウちゃんが心配なのっ! あたしがヨウちゃんとはなれてる間に、知らないうちに、ヨウちゃんがどうにかなっちゃうんじゃないかって、胸がおかしくなっちゃいそうなのっ!!
それくらいなら、あたしもいっしょにいるっ! ヨウちゃんがだいじょうぶかどうか、そばで、ちゃんと見てたいっ!!」
「わかんねぇのかっ!! 今のオレにとって、おまえは足カセなんだよっ!」
ズクッと、言葉の矢が胸に刺さった。
「……あし……かせ……?」
ヨウちゃんの眉間に深いしわが寄ってる。泣きそうな目。傷ついたあたしの顔に、傷ついている目。
ヨウちゃんは歯を食いしばって、うつむいた。
「……綾……ごめん。けど、オレは、ただのちっぽけなガキでしかないんだ……。どっかの映画のヒーローみたいに、こんな場所まで来て、おまえまで守り切れる自信なんて、あるわけないんだよ。いっしょにいたら……共倒れして、ふたりとも終わりだ……」
「……ヨージ。レディーにそんなセリフを吐くもんじゃない……」
ゾクッと心臓がこおりついた。
ヨウちゃんも目を見開いてる。
今の声、ヨウちゃんの肩にたれさがっている、お父さんの頭からきこえた……。
ヨウちゃんの肩で、ぞわぞわと、琥珀色の髪が動いた。
ぶらさがっていた左右の手が、自らの意志を持って、ヨウちゃんの首の両側に近づいていく。
「よ、ヨウちゃんっ!」
十本の指は、ヨウちゃんの首にふれたとたん、ぐっと力がこもった。
「っ!」
ヨウちゃんが息をつまらせる。
「……ヨージ。おまえが、そんな冷たい子に育ってしまったなんて、とうさんはかなしいぞ」
「は、ハグっ!? どうしてっ!? お父さんは、お母さんの食事で眠らされたはずじゃ……」
あたしの声に反応して、お父さんの前髪がゆっくりと持ちあがった。にやけた口元。
なのに、琥珀色をしているはずの目は、牛乳のように白く濁っている。
「なに……この体は、いまだに眠っているさ。セイコが盛った、強力な眠り薬の力でね。けれど、入れ物は入れ物。中身は中身。わたしの魂は、入れ物が眠ったところで眠らない……」
「そんな……」
「誤算」って言葉が、頭にうかんできた。
ハグは、はじめから寝てたわけじゃなかったんだ。
ずっと寝たふりをして、ヨウちゃんたちが何をはじめるか、ようすを見ていただけなんだ……。
「ヨージ。おまえは、セイコに告げ口したね? かあさんにとうさんの悪口を言うとは、なんて悪い子なんだ!」
「……ぐ……」
ヨウちゃんの肩から力が抜けていく。目がぼんやりと閉じられちゃう。
「や、やめてっ!! 」
あたしの悲鳴に、ヨウちゃんが目を見開いた。両手に力をこめて、ハグの両手首をつかむ。力まかせに、自分ののど元から、お父さんの手を引きはなす。
空の月明かりを黒い棒状のものがさえぎった。
棒状のものは、みるみる大きくなり、輪郭がくっきりとして、ハグの手元に落下してくる。
なにあれ……?
杖……? 先端に銀色の羽がついた……。
ハグが右手に杖をつかんだと思ったとき、それはもう、ヨウちゃんの鼻の先につきだされていた。
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