
木のうらに隠れているあたしの前を素通りして、ヨウちゃんが歩き出した。
足を一歩踏み出すたびに、歯を食いしばって。左右の足首に、お父さんと自分、ふたりぶんの体重をかけて。
足元には、木の根がとびだしてるし、石がゴロゴロ落ちている。
たよりは、トンネル工事のおじさんみたいに頭につけた、ヘッドランプの明かりだけ。
ホー。
木の枝でフクロウが鳴いた。
「う、うわぁああっ!? 」
ヨウちゃん、足をひねって、転びそうになってる。
えええっ!? だ、だいじょうぶっ!?
ヘッドランプに照らされてる顔色、真っ青。ほっぺたに汗ダラダラだし。
ヨウちゃんて、自分のこと隠すからわかりにくいけど、ものっすごい怖がり。
「だ、だいじょうぶだ……。オレはだいじょうぶだ……」
ぼそぼそ、ぼそぼそ。自分に言いきかせる声、呪文みたい。
お父さんを自分の背中に押しあげ直して、ヨウちゃん、また歩き出した。
モッズコートのポケットから、何かがポロっとこぼれ落ちた。
なんだろ? ゴミ?
だけど、あの、四角いぞうきんみたいなヘンな物体、見覚えがある。
ヨウちゃんは落としたのにも気づかずに、そのまま歩いて行っちゃう。
あたしはそろっと、木の後ろから抜け出した。
落ちたものを拾いあげたら、やっぱり、クッション型のサシェ。縫い目は大きくなったり、小さくなったりして、ぼっこぼこ。
これ……あたしが昔、ヨウちゃんにあげた……。
あたしは遠ざかっていく背中に向かって、大きく息を吸い込んだ。
「ねぇ、ヨウちゃんっ! こんなお守りじゃ、ヨウちゃんの『怖い』って気持ちはなくならないよっ!! 」
バサバサバサ……。
頭上で羽を広げて、フクロウの影が飛び立つ。
「このネトルとヤロウのサシェは、妖精仕様だもん。妖精本人か、妖精に関することにしか効かないもん! お守りが必要なら、あたしにしてっ! あたしが暗い夜道でも、怖いことなく、ヨウちゃんを墓地までつれて行ってあげるからっ!! 」
ヨウちゃんは五メートル先で立ちどまって、あたしをふり返ってる。
目、まん丸。お父さんをおぶったまま、かたまってる。
ドキドキ、ドキドキ。あたしの心臓、波打ってる。
怒る……?
怒るよね……。
だけど……それでも、あたしの心はゆらがないっ!
「……やられた……」
ヨウちゃんはうつむいた。
顔をあげたとき、琥珀色の瞳は、ギロっとあたしをにらんでた。
「綾っ! おまえ、なに考えてんだっ!! オレも、かあさんも鵤さんだって、あれだけとめただろっ!! それを無視して、なんでこんなとこまで来てんだよっ!! 早くもどって、かあさんの車に乗せてもらえ。で、かあさんに、家まで送ってもらえっ!」
「や、ヤダっ!! 」
あたしはぎゅっと、ネトルとヤロウのサシェを胸に抱いた。
「ぜったいに、帰んないっ!! それにもう、あたしだって結界の中にいるんだもんっ!! ぜんぶ終わって、ヨウちゃんが結界を解くまで、あたしだって外に出られないもんっ!」
「……じゃあ、オレが帰ってくるまで、この道で待ってろ」
……なによ……。
鼻の奥がつんとした。
「……どうして……? ねぇ、どうしてそこまでして……ヨウちゃん、あたしを行かせてくれないの? お願いだから、つれて行ってよ。あたしだって、ヨウちゃんの役に立ちたいよ……」
涙がだらしなく、あたしのほおを伝っていく。
あたし、すごくみっともない……。
こんなとこまで追いかけてきて。それでもまだ、「来るな」って言われて。「ヤダ」って、怒鳴って。それでもダメなら、泣いて追いすがって……。
それでも……それでも……。
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