《5》 あたしたちの決断4 - ナイショの妖精さん5
fc2ブログ

《5》 あたしたちの決断4

  11, 2022 11:42
5_5.jpg



 木のうらに隠れているあたしの前を素通りして、ヨウちゃんが歩き出した。

 足を一歩踏み出すたびに、歯を食いしばって。左右の足首に、お父さんと自分、ふたりぶんの体重をかけて。

 足元には、木の根がとびだしてるし、石がゴロゴロ落ちている。

 たよりは、トンネル工事のおじさんみたいに頭につけた、ヘッドランプの明かりだけ。


 ホー。


 木の枝でフクロウが鳴いた。


「う、うわぁああっ!? 」


 ヨウちゃん、足をひねって、転びそうになってる。


 えええっ!?  だ、だいじょうぶっ!?


 ヘッドランプに照らされてる顔色、真っ青。ほっぺたに汗ダラダラだし。

 ヨウちゃんて、自分のこと隠すからわかりにくいけど、ものっすごい怖がり。


「だ、だいじょうぶだ……。オレはだいじょうぶだ……」


 ぼそぼそ、ぼそぼそ。自分に言いきかせる声、呪文みたい。

 お父さんを自分の背中に押しあげ直して、ヨウちゃん、また歩き出した。


 モッズコートのポケットから、何かがポロっとこぼれ落ちた。


 なんだろ? ゴミ?


 だけど、あの、四角いぞうきんみたいなヘンな物体、見覚えがある。

 ヨウちゃんは落としたのにも気づかずに、そのまま歩いて行っちゃう。


 あたしはそろっと、木の後ろから抜け出した。

 落ちたものを拾いあげたら、やっぱり、クッション型のサシェ。縫い目は大きくなったり、小さくなったりして、ぼっこぼこ。


 これ……あたしが昔、ヨウちゃんにあげた……。


 あたしは遠ざかっていく背中に向かって、大きく息を吸い込んだ。


「ねぇ、ヨウちゃんっ! こんなお守りじゃ、ヨウちゃんの『怖い』って気持ちはなくならないよっ!! 」


 バサバサバサ……。


 頭上で羽を広げて、フクロウの影が飛び立つ。


「このネトルとヤロウのサシェは、妖精仕様だもん。妖精本人か、妖精に関することにしか効かないもん! お守りが必要なら、あたしにしてっ! あたしが暗い夜道でも、怖いことなく、ヨウちゃんを墓地までつれて行ってあげるからっ!! 」


 ヨウちゃんは五メートル先で立ちどまって、あたしをふり返ってる。

 目、まん丸。お父さんをおぶったまま、かたまってる。


 ドキドキ、ドキドキ。あたしの心臓、波打ってる。


 怒る……?


 怒るよね……。


 だけど……それでも、あたしの心はゆらがないっ!



「……やられた……」


 ヨウちゃんはうつむいた。

 顔をあげたとき、琥珀色の瞳は、ギロっとあたしをにらんでた。


「綾っ! おまえ、なに考えてんだっ!!  オレも、かあさんも鵤さんだって、あれだけとめただろっ!!  それを無視して、なんでこんなとこまで来てんだよっ!!  早くもどって、かあさんの車に乗せてもらえ。で、かあさんに、家まで送ってもらえっ!」


「や、ヤダっ!! 」


 あたしはぎゅっと、ネトルとヤロウのサシェを胸に抱いた。


「ぜったいに、帰んないっ!!  それにもう、あたしだって結界の中にいるんだもんっ!!  ぜんぶ終わって、ヨウちゃんが結界を解くまで、あたしだって外に出られないもんっ!」


「……じゃあ、オレが帰ってくるまで、この道で待ってろ」


 ……なによ……。


 鼻の奥がつんとした。


「……どうして……? ねぇ、どうしてそこまでして……ヨウちゃん、あたしを行かせてくれないの? お願いだから、つれて行ってよ。あたしだって、ヨウちゃんの役に立ちたいよ……」


 涙がだらしなく、あたしのほおを伝っていく。


 あたし、すごくみっともない……。


 こんなとこまで追いかけてきて。それでもまだ、「来るな」って言われて。「ヤダ」って、怒鳴って。それでもダメなら、泣いて追いすがって……。


 それでも……それでも……。




次のページに進む

前のページへ戻る



コミカライズ版もあります!!


【漫画シーモア】綾ちゃんはナイショの妖精さん


【漫画kindle】綾ちゃんはナイショの妖精さん


【漫画動画1巻1話】



にほんブログ村


児童文学ランキング


スポンサーサイト



Comment 0

What's new?