《5》 あたしたちの決断1 - ナイショの妖精さん5
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《5》 あたしたちの決断1

  28, 2022 11:24
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「ママ、あたしがお皿洗うよ」


 リビングから声をかけると、キッチンでお皿を洗っていたママの口元がほころんだ。


「まぁ、ホントっ!?  綾がお手伝いしてくれるなんて、めずらしいじゃない。助かるわ~」


「えへへ」と笑って、あたしは右手にスポンジ、左手にお皿を持った。


「……あら? 綾……それ……?」


 ママの長いまつ毛が、まばたきして、あたしの胸元を見おろす。

 部屋着丸出しのピンクのふわもこパーカ。だけど胸で、シルバーチェーンの華奢なネックレスが、あわく光ってる。小さなアゲハチョウのチャームつき。


「お夕飯食べ終わって、もう寝るだけなのに、綾、どうしてそんなのつけてるの……?」


「え? あ……うん……。ちょっと、そんな気分になっただけ」


 あたしは口元だけで、また「えへへ」って笑った。

 ヨウちゃんが、クリスマスにくれたネックレス。慣れない手で必死になって、あたしの首につけてくれた。


「ねぇ、ママ……」


 お皿についた洗剤を流しながら、あたしはリビングのママに呼びかけた。

 ママは、リラックスモードに入ったみたい。パーマのかかった髪を後ろにひとつでまとめて、ソファーでテレビを見てる。


「ママはさ……。きょう、パパが危ない目にあうって知ってるのに、パパが『ついて来るな』って言ったら、行かないでガマンして、ちゃんと家にいる?」


 テレビの中で、クイズの司会者が笑ってる。パパはきょう、土曜出勤だから、夜の九時をすぎないと帰ってこない。


「なぁに、綾。ヘンなことをきく子ね。そんな話、マンガで読んだの? まぁ、映画とかマンガみたいなドラマティックなお話の主人公なら、『来るな』ってとめられても、ついて行くんでしょうね。でも、現実は……」


 ママはあごに人差し指を置いて、天井を見あげた。


「パパといっしょに行って、ママにまで何かあったら、綾がこまるから。ママは行かないわね」


「じゃあ、昔だったら? あたしが産まれる前の、ママとパパが恋人同士のときは?」


「……そうね……」


 ママはふっと目を細めた。


「……行っちゃったかもしれない。だって、パパはママにとって、ママの一部みたいなものだもの……」


 パパは……ママの一部……?


 あたしは自分の胸元を見おろした。アゲハチョウのチャームが、蛍光灯の光を反射している。


「でも、綾。これはあくまで想像の中でのお話よ。そんなことがじっさいにあったら、ママは行くより、まず警察に電話するわね。そのほかにも、人に助けを借りるなり、なんなり。方法は別にいくらでもあるでしょ?」


「そっか。そうだよね」


 あたしは、洗ったお皿をかごに立てた。

 気を抜くと、心臓をぞうきんみたいに、しぼりあげられる。


 ヨウちゃん……今、なにしてるのっ!?


 夕飯はもう食べた?

 お母さんはお父さんのご飯にうまく眠り薬を入れられた? お父さんは気づかないで、ご飯を食べてくれた? ちゃんと眠らせることができた?





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