
「家まで送ってく……」
「う、うん……」
横顔を盗み見したら、ヨウちゃんは目の下を赤く腫らして、じっと行く先を見つめてた。
送ってくれるのは、うれしいんだけど。
あたし、ママに「人前でイチャイチャするな」ってとめられてて。
今、この山道には、あたしとヨウちゃんしか歩いてない。
ってことは、人前じゃない?
っていうか、これ……いつものつなぎ方よりずっと、はずかしいんだけど……。
「……綾……きょうはありがとう……」
ヨウちゃんの指に力がこもった。
「おまえにはいつも、カッコ悪いとこばっか見られてる……。我ながら、なさけなくて、イヤになる……」
「そ……そう……?」
「そうだよ……。きょうなんて、ボロボロ泣いたし。かと思えば、いきがって、かあさんにぜんぶ見抜かれるし……。ホント……なんでオレって、こんななんだろ~な」
ヨウちゃん、右手で自分の首後ろをさすってる。
「……ヨウちゃんて、そんなこと考えてたの……?」
「そんなことって、なんだよ? オレだって本当は、スマートでいたいんだよ」
「スマートって? クールで、名探偵みたいにピピピって解決できて。怖いものなんかひとつもなくって。スーパーマンみたいに、サッとあらわれて、あたしのことを守ってくれる。みたいな?」
「……いや、具体的に言われると、なんかアレだけど。まぁ……そう……」
「あたし、そんなヨウちゃんいらな~い」
あたしは、頭でこてんと、ヨウちゃんの腕にもたれた。
「だってそんな機械みたいな人、いっしょにいても冷たくって、ちっとも、あったまらなさそうだもん。あたしは、今のまんまのヨウちゃんがいい……」
う……。はずかしい……。
今、顔を見ないで、ヨウちゃん。ほっぺた熱くて、燃えちゃいそう。
ヨウちゃんは、それきり、だまり込んじゃって。
登山道の入り口まで来ると、つないでいた手をはなして、あたしのポケットから手を出した。
赤みが消えて、うす青色に染まっていく街並み。
家の前の大通りを、ヨウちゃんと肩をならべて歩くのは、ちょっとレア。
あたしの家とヨウちゃんの家は、学校の東側と西側にあって。いつもあたしのほうが、ヨウちゃんちに行ってるから。
帰りに送ってもらうときは、ヨウちゃんのお母さんの車でだし。
窓明かりに照らされるフラワーショップの前を通ったとき、あたしは「あっ!」と、立ちどまった。
「なんだよ?」
どうしようっ!
あたしまだ、ヨウちゃんにバレンタインデーのチョコ、わたしてなかったっ!
まばたきするヨウちゃんのコートの腕を、ぎゅっとつかんで。
「まだ帰らないで、お願い。そこで待ってて」
家の門を開けて「ただいま~!」と、あたしは玄関にかけこんだ。
「おかえり、綾。ちゃんと、塾行ったんでしょうね?」
リビングのママの声に、「行ったぁ~」と答えて、そのまま、ドタドタ二階にあがる。
塾のカバンを投げ捨てると、勉強づくえの上から紙袋をつかんで、また階段をかけおりる。
「ヨウちゃん、おまたせ」
ハアハア、家の門の前までもどったあたしの口から、白い息があがった。
「あ、あの! これ、一日遅れちゃったけど、バレンタインデーのチョコレートっ!! 」
きのう一日学校で持っていた紙袋から、チョコの箱をつかんで、ぐいっと、ヨウちゃんの胸につきつける。
「……わ……? ……え?」
赤いハート型のちっちゃな紙箱。ピンクのリボンでむすんでる。
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