
「……そんな……お母さんまで……。あ、鵤さん! 鵤さんはっ!? 」
「わたしも綾ちゃんには、家で待っていてほしいな。綾ちゃんは前に、ハグに体をのっとられたよね? 綾ちゃんは人間だが、綾ちゃんの体の中には妖精が入っている。自裁に人間サイズの妖精になれる綾ちゃんは、ハグにとっては、りんぷんを好きなだけ手に入れられる、魅力的な『入れ物』なんだよ。
リズの体から、ハグの魂を切りはなしたとして、そのあと、ハグがまた、綾ちゃんの体をのっとったりでもしたら、たいへんだ」
「……それは……だけど……」
味方がいない。
あたしだけ……ヨウちゃんの役に立てない……。
「綾ちゃん。あなたはもうじゅうぶん、葉児を助けてくれたわ。レモンバームの葉を持ってきてくれたし、わたしをここにつれてきてくれた。葉児だってそれは……わかっているわよね?」
お母さんがふり返ると、ヨウちゃんはうつむいた。
「……ああ……」
小さな声が、あたしの胸にしみていく。
ヨウちゃん……本当に……?
「――葉児君。せめてもの手助けだ。わたしは、登山道の木に蛍光テープでしるしをつけて、きみが迷わないようにしておくよ。ほかに、わたしに用意できるものがあったら、遠慮なく言ってくれ」
「じゃあ、あの……儀式のときに必要なものを用意してもらえますか? リンゴとコッペパンとそれから水」
「了解。外人墓地に置いておこう」
「わたしも、葉児がもどってくるまで、登山道の入り口に車で待機してるわ。あなたはひとりじゃない。それはわすれないで」
「……うん」
守るように立つおとなふたりにかこまれて、ヨウちゃんが小さな子に見えた。
「帰りは別々にしましょう。わたしと葉児がつながったことを、ハグに知られたらいけないわ」
ヨウちゃんのお母さんの提案に、ヨウちゃんはうなずいた。
「わたしは、今まで警察にいたことにするわね。葉児とは会えてない。家出先も知らないことにするから。葉児もケガが治ってないふりをして、あとから帰ってきなさい」
「わかった」
植物園の門の前。先に下山するお母さんに手をふるヨウちゃんの前髪を、夕日がオレンジ色に照らしている。
色白のほっぺたに、ほんのり赤みがもどってる。
よかった……ヨウちゃん、本当に元気になったんだ……。
胸があったかくなって、ポーと見とれてたら、「……なに?」と、気づかれた。
「……え? あ、ううん」
ピンクのコートのポケットに両手をつっこんで、あたしも歩き出す。
決行は今晩。
あたしは、なんにもやることなし。
お母さんが、ハグの食事にアグリモニーの眠り薬を入れているときも、ハグが眠らされたときも。ヨウちゃんが、ハグを墓場まで運ぶときも。
あたしは家で、夕飯を食べて、お風呂に入って。テレビ見て、寝るだけ。
右ポケットの中に、大きな手がのびてきた。
「……え?」
あたしのポケットの内側で、ヨウちゃんの左手のひらが、あたしの右手の甲をそっとなでる。それから、指と指の間に、ヨウちゃんの指が交互に入ってきて。きゅっと、恋人つなぎ。
うひゃぁあああっ!!
心臓がとびはねた。
ドクドク、ドクドク。心臓の音すごいし、ほっぺたがカッカと熱くなる。
「よ……ヨウちゃん……?」
声、裏返っちゃって、震えぎみ。
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