《4》 何度、桜の季節が来ても5 - ナイショの妖精さん5
fc2ブログ

《4》 何度、桜の季節が来ても5

  31, 2022 21:05
5_4.jpg


「……そんな……お母さんまで……。あ、鵤さん! 鵤さんはっ!? 」

「わたしも綾ちゃんには、家で待っていてほしいな。綾ちゃんは前に、ハグに体をのっとられたよね? 綾ちゃんは人間だが、綾ちゃんの体の中には妖精が入っている。自裁に人間サイズの妖精になれる綾ちゃんは、ハグにとっては、りんぷんを好きなだけ手に入れられる、魅力的な『入れ物』なんだよ。

リズの体から、ハグの魂を切りはなしたとして、そのあと、ハグがまた、綾ちゃんの体をのっとったりでもしたら、たいへんだ」


「……それは……だけど……」


 味方がいない。

 あたしだけ……ヨウちゃんの役に立てない……。


「綾ちゃん。あなたはもうじゅうぶん、葉児を助けてくれたわ。レモンバームの葉を持ってきてくれたし、わたしをここにつれてきてくれた。葉児だってそれは……わかっているわよね?」


 お母さんがふり返ると、ヨウちゃんはうつむいた。


「……ああ……」


 小さな声が、あたしの胸にしみていく。


 ヨウちゃん……本当に……?



「――葉児君。せめてもの手助けだ。わたしは、登山道の木に蛍光テープでしるしをつけて、きみが迷わないようにしておくよ。ほかに、わたしに用意できるものがあったら、遠慮なく言ってくれ」

「じゃあ、あの……儀式のときに必要なものを用意してもらえますか? リンゴとコッペパンとそれから水」

「了解。外人墓地に置いておこう」

「わたしも、葉児がもどってくるまで、登山道の入り口に車で待機してるわ。あなたはひとりじゃない。それはわすれないで」


「……うん」


 守るように立つおとなふたりにかこまれて、ヨウちゃんが小さな子に見えた。





「帰りは別々にしましょう。わたしと葉児がつながったことを、ハグに知られたらいけないわ」


 ヨウちゃんのお母さんの提案に、ヨウちゃんはうなずいた。


「わたしは、今まで警察にいたことにするわね。葉児とは会えてない。家出先も知らないことにするから。葉児もケガが治ってないふりをして、あとから帰ってきなさい」

「わかった」


 植物園の門の前。先に下山するお母さんに手をふるヨウちゃんの前髪を、夕日がオレンジ色に照らしている。

 色白のほっぺたに、ほんのり赤みがもどってる。


 よかった……ヨウちゃん、本当に元気になったんだ……。


 胸があったかくなって、ポーと見とれてたら、「……なに?」と、気づかれた。


「……え? あ、ううん」


 ピンクのコートのポケットに両手をつっこんで、あたしも歩き出す。


 決行は今晩。

 あたしは、なんにもやることなし。


 お母さんが、ハグの食事にアグリモニーの眠り薬を入れているときも、ハグが眠らされたときも。ヨウちゃんが、ハグを墓場まで運ぶときも。

 あたしは家で、夕飯を食べて、お風呂に入って。テレビ見て、寝るだけ。


 右ポケットの中に、大きな手がのびてきた。


「……え?」


 あたしのポケットの内側で、ヨウちゃんの左手のひらが、あたしの右手の甲をそっとなでる。それから、指と指の間に、ヨウちゃんの指が交互に入ってきて。きゅっと、恋人つなぎ。


 うひゃぁあああっ!!


 心臓がとびはねた。

 ドクドク、ドクドク。心臓の音すごいし、ほっぺたがカッカと熱くなる。


「よ……ヨウちゃん……?」


 声、裏返っちゃって、震えぎみ。





次のページに進む

前のページへ戻る



コミカライズ版もあります!!


【漫画シーモア】綾ちゃんはナイショの妖精さん


【漫画kindle】綾ちゃんはナイショの妖精さん


【漫画動画1巻1話】



にほんブログ村


児童文学ランキング
スポンサーサイト



Comment 0

What's new?