
「けど、かあさん……車じゃ、とちゅうまでしか入れない。墓地までは、登山道しか道がないだろ?」
「あら……そうね。じゃあ、鵤さんにもお願いして、おとなふたりで、抱えて運びましょうか?」
「それもダメだ。この儀式を成功させるには、登山道の入り口に結界を張って、妖精とフェアリー・ドクター以外の立ち入りを禁止しなきゃならない。つまり、浅山全体を、人間の立ち入れない、精霊のための空間にしてしまう必要がある。
そうやって、神秘の世界とむすびつくことで、やっと『よみがえり』に関する儀式が行えるんだ」
「つまり、葉児君がひとりで、すべて行うって言うのかい? まさか、リズの体を背負って、山をのぼる気か? 浅山の外人墓地があるのは、この植物園より、もっと上だよ。ここが浅山の中腹だとすると、外人墓地は八合目。標高150メートルの低い山とはいえ、入り口からは、歩いてざっと、1.5キロ……」
鵤さんが灰色のまゆをひそめて、あごひげをなでる。

「葉児、そんなに歩ける? お父さんを背負ってよ? それに、日が落ちてから、実行するつもりなんでしょ?」
「そのつもりだよ。じゃないと、植物園やキャンプ場に、もし人がのこっていたりしたら、まずいだろ?」
「この時期、キャンプ場は閉鎖されているよ。しかし、ここがな……。まぁ、こうして、人の入りもほとんどない植物園だし。冬は、頂上の芝生広場に遊びに来る家族づれも、ほとんど見かけないが」
「かといって、ゼロじゃない。人を巻き込むわけにはいかないから……」
三人がだまり込むと、部屋の空気が、鉛みたいに重たくなった。
夜……おとなひとりを背負って。小六の男子が、登山する……。
学校の先生だったら、「バカかっ!」って怒鳴りつけるぐらいのこと。
でも、ここにいるおとなたちは、それがどうしても必要だってことを、知っている……。
「ね、ねぇ! あ、あたしもヨウちゃんと行こうかっ!? 」
三人の後ろでさけんだら、声が裏返った。
「……綾……?」
ヨウちゃんが顔をあげて、あたしを見る。
鵤さんやお母さんもふり返って、ドアの前のあたしを見てる。
「だ、だって、あたしだってフェアリー・ドクターだもん! そのうえ、あたしの体なんて、半分妖精だし! あたしなら、ヨウちゃんといっしょに結界の中に入れるっ!! あたしがヨウちゃんをサポートするよっ!! 」
「……ダメだ」
ヨウちゃんの眉間にしわが寄った。
「たった、一キロちょいったって、おまえ、山登りだぞ! ここよりも高いところに、のぼらないとならないんだぞっ!! しかも、夜遅くにだ。街灯もほとんどない。懐中電灯のあかりがたより。おまえみたいなドジの運動オンチが、そんなとこ歩いて、道から、足を踏みはずしたりでもしたら、どうするんだっ!! 」
「……う」
言い返せない……。
あたしなんか、ついて行ったって、足手まといになるだけ……。
「で、でも~……あたしだって、ヨウちゃんの役に立ちたい~……」
「葉児。言い方には気をつけなさいって、お母さん、前にも言ったわよね?」
お母さんが、イスから立ちあがった。
「あなたが、綾ちゃんをつれて行きたくない理由は、綾ちゃんがドジだからじゃないでしょう? あなたが、綾ちゃんを、大切にしまっておきたいからなんでしょう? 大切だから、安全なところに置いておきたい。言うべきは、そこよ。人を傷つけるような建前じゃない」
カアッと、ヨウちゃんのほっぺたが赤くなる。
「ち、ちがうっ! そんなんじゃないっ!! お、オレは、本当に……」
うだうだ言ってるヨウちゃんを無視して、お母さんはあたしに向き直った。
「……だけどね、綾ちゃん。気持ちはありがたいけど。わたしも親として、人様の娘さんを、こんなあぶないことに巻き込むわけにはいかないわ」
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