《4》 何度、桜の季節が来ても4 - ナイショの妖精さん5
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《4》 何度、桜の季節が来ても4

  24, 2022 18:47
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「けど、かあさん……車じゃ、とちゅうまでしか入れない。墓地までは、登山道しか道がないだろ?」

「あら……そうね。じゃあ、鵤さんにもお願いして、おとなふたりで、抱えて運びましょうか?」

「それもダメだ。この儀式を成功させるには、登山道の入り口に結界を張って、妖精とフェアリー・ドクター以外の立ち入りを禁止しなきゃならない。つまり、浅山全体を、人間の立ち入れない、精霊のための空間にしてしまう必要がある。

そうやって、神秘の世界とむすびつくことで、やっと『よみがえり』に関する儀式が行えるんだ」

「つまり、葉児君がひとりで、すべて行うって言うのかい? まさか、リズの体を背負って、山をのぼる気か? 浅山の外人墓地があるのは、この植物園より、もっと上だよ。ここが浅山の中腹だとすると、外人墓地は八合目。標高150メートルの低い山とはいえ、入り口からは、歩いてざっと、1.5キロ……」


 鵤さんが灰色のまゆをひそめて、あごひげをなでる。


公開用 5巻 鵤さん_2



「葉児、そんなに歩ける? お父さんを背負ってよ? それに、日が落ちてから、実行するつもりなんでしょ?」

「そのつもりだよ。じゃないと、植物園やキャンプ場に、もし人がのこっていたりしたら、まずいだろ?」

「この時期、キャンプ場は閉鎖されているよ。しかし、ここがな……。まぁ、こうして、人の入りもほとんどない植物園だし。冬は、頂上の芝生広場に遊びに来る家族づれも、ほとんど見かけないが」

「かといって、ゼロじゃない。人を巻き込むわけにはいかないから……」


 三人がだまり込むと、部屋の空気が、鉛みたいに重たくなった。


 夜……おとなひとりを背負って。小六の男子が、登山する……。


 学校の先生だったら、「バカかっ!」って怒鳴りつけるぐらいのこと。


 でも、ここにいるおとなたちは、それがどうしても必要だってことを、知っている……。


「ね、ねぇ! あ、あたしもヨウちゃんと行こうかっ!? 」


 三人の後ろでさけんだら、声が裏返った。


「……綾……?」


 ヨウちゃんが顔をあげて、あたしを見る。

 鵤さんやお母さんもふり返って、ドアの前のあたしを見てる。


「だ、だって、あたしだってフェアリー・ドクターだもん! そのうえ、あたしの体なんて、半分妖精だし! あたしなら、ヨウちゃんといっしょに結界の中に入れるっ!!  あたしがヨウちゃんをサポートするよっ!! 」


「……ダメだ」


 ヨウちゃんの眉間にしわが寄った。


「たった、一キロちょいったって、おまえ、山登りだぞ! ここよりも高いところに、のぼらないとならないんだぞっ!!  しかも、夜遅くにだ。街灯もほとんどない。懐中電灯のあかりがたより。おまえみたいなドジの運動オンチが、そんなとこ歩いて、道から、足を踏みはずしたりでもしたら、どうするんだっ!! 」


「……う」


 言い返せない……。

 あたしなんか、ついて行ったって、足手まといになるだけ……。


「で、でも~……あたしだって、ヨウちゃんの役に立ちたい~……」


「葉児。言い方には気をつけなさいって、お母さん、前にも言ったわよね?」


 お母さんが、イスから立ちあがった。


「あなたが、綾ちゃんをつれて行きたくない理由は、綾ちゃんがドジだからじゃないでしょう? あなたが、綾ちゃんを、大切にしまっておきたいからなんでしょう? 大切だから、安全なところに置いておきたい。言うべきは、そこよ。人を傷つけるような建前じゃない」


 カアッと、ヨウちゃんのほっぺたが赤くなる。


「ち、ちがうっ! そんなんじゃないっ!!  お、オレは、本当に……」


 うだうだ言ってるヨウちゃんを無視して、お母さんはあたしに向き直った。


「……だけどね、綾ちゃん。気持ちはありがたいけど。わたしも親として、人様の娘さんを、こんなあぶないことに巻き込むわけにはいかないわ」








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